第8章 6-2. 咬魚の束縛 後編
◇ ◇ ◇
着替え終わったシェラは、保健室の外で待っている3人を呼ぼうと扉へ向かった。
扉までの短い距離であるが、歩くと僅かに足首に痛みが残っていることに気づいた。
フロイドの言っていた意味がよく分かった。
治癒魔法では捻挫など神経系の怪我の完治は難しいと言っていたのだが、やはりその通りで歩けないわけでは無いが歩くと少し痛い。
シェラは扉に手をかけ、そして気づく。
扉の外から3人の会話の声が聞こえる。
(なにか話してる……?)
この声はフロイドだ。
内容までは分からないが、フロイドがなにか長く話している。
せっかく3人で楽しそうにおしゃべりをしているのだから、水を指すのも悪い。
シェラは話が終わるまで扉の前で待機する。
やがて、会話の声が途切れた。
(会話が終わったっぽいな)
「お待たせしまし――……」
「ばぁ!」
「ぅわっ……!びっくりした……」
扉を開けると、すぐ目の前に高い壁が立っていた。
高い壁――フロイドは、シェラが扉を開けるタイミングを狙って、驚かせるように声を上げた。
語尾にハートマークでもついてそうな可愛らしい驚かせ方だったが、それでもシェラにとっては予想外に声をかけられて思わず肩が大きく上下した。
「あは。またエビみたいに肩をビクッとさせてるー」
そんなシェラを見て、フロイドは揶揄いの笑みを浮かべながら軽口を叩く。
「なんです。意地悪ですね。驚かせないでください」
「ごめんごめーん」
文句を言うシェラを軽くあしらうように、フロイドはシェラの頭をぽんぽんと撫でた。
「シェラ、足の調子どーよ?」
「歩けるのか?」
「歩くとやっぱり少し痛いかな」
フロイドの後に続いて保健室に入ってきたエースとデュースが、シェラの足の具合を訊ねた。
シェラの横を通り過ぎてベッドサイドに向かったフロイドは、振り返って3人を見ると、にぱっと笑った。
「じゃ、帰ろっかぁ。あ、でもその前に……荷物邪魔だから先にオンボロ寮に送っとこっかぁ。メロン重いし」
寮の鍵はちゃんと持ってねぇ、と言いながらフロイドはマジカルペンを取り出す。
シェラはフロイドの元へ向かうと、言われた通り荷物から鍵だけを取ってポケットにしまう。
「転送魔法ですか?」
「そーだよぉ」