第8章 6-2. 咬魚の束縛 後編
まともな選択肢を提案してくれると期待していたのだが、結局エースの中ではキツいという結論に行き着き、この選択肢はなかったことになった。
再びどうしようかとシェラが考え始めたところへ、今度はデュースがエースの選択肢に追加する形で提案した。
「交代でおんぶがキツいなら、担架はどうだ?」
「絶対嫌。デュースそれ本気で言ってるの?」
シェラは食い気味で拒否する。
せっかく提案してくれたのだが、絵面を想像するだけで羞恥心に耐えられそうに無いし、運ばれている途中でふたりがいつもの言い争いを始めたらその勢いで担架から転がり落ちそうだ。
残った選択肢はフロイドのおんぶかお姫様抱っこだ。
お姫様抱っこという選択は最初から無い。それこそ人目を集めすぎる。
どれを選んでも人目を集めるのは必至だが、おぶってもらうのが1番自然な気がする。
「はぁ……。じゃあ、3のおんぶでお願いします」
妥協に妥協を重ね、仕方なしにシェラはおんぶを選んだ。
ふたりには悪いが、フロイドの方が力が強い。いつもシェラのことを軽いと言っているくらいだから、そこそこ遠いオンボロ寮までシェラを背負っても途中でバテたりはしないだろう。
「おっけー。任せてよぉ」
「帰る前に制服に着替えていいですか?」
「いいよぉ」
フロイドは返事をすると、エースとデュースの背中を押して3人揃って一旦保健室から退室した。
シェラひとりになった。
持ってきてくれた荷物から制服を取り出すと、あまり待たせてはいけないと思い手早く着替え始めた。
◇ ◇ ◇
フロイドと共に退室したエースとデュースは、保健室の外でシェラの着替えが終わるのを待っていた。
「シェラがバイト始めたら先輩達と一緒にモストロ・ラウンジに行かせていただきます」
「ほんとー?ちゃんと金魚ちゃんも連れてきてねー?」
あは、とフロイドは邪気のない笑顔をデュースに見せる。
「リドル寮長もシェラがバイトしてるってんなら嫌がらずについてきてくれそうだしねー」
過去に一度、ケイトと一緒にエースはモストロ・ラウンジに一緒に行かないかとリドルを誘ったことがある。
しかしその時は、フロイドがいる空間にわざわざ自分から出向きたくないと、露骨に嫌な顔をされた。
リドルのフロイドに対する苦手意識は相当なものだ。