第8章 6-2. 咬魚の束縛 後編
そう言って、フロイドはずいっと顔を近づけてくる。
言葉通り、もっと褒めろということだろうか。
目尻が下がった柔らかな目元と、きゅっと上がった口角。
可愛らしい笑顔でシェラを見つめるフロイド。
ただ、残念ながらシェラは咄嗟に褒め言葉が出てくるような語彙力は持ち合わせていない。
少し考え、おずおずとフロイドの頭に手を伸ばす。
「……ありがとう、ございます」
いつもフロイドがしてくれるように、シェラはぽんぽんとフロイドの頭を撫でた。
褒められたからか、撫でられたからか、フロイドは下がった目尻を更に下げ、にこーっと笑っている。すこぶる上機嫌だ。
こう嬉しそうにされると、こっちまで照れてしまう。
シェラはフロイドの頭を撫でた手をぎゅっと握り、頬を淡くピンクに染めてフロイドから目を逸らす。
それを見たエースとデュースは言い争いをやめて、なにか思ったのか顔を見合わせる。
視線を逃がした先に、自分のものではない果物が置いてあった。
「ところで、これは?」
ベッドサイドのチェストに置かれた大きなメロンを見て、シェラは訊ねる。
「?どっからどう見てもメロンじゃーん」
「ええ、それは見れば分かります」
メロンの他に林檎や蜜柑も籠に入っている、立派なフルーツ盛り合わせ。
ビニールでラッピングもされていて、濃淡2色の細いパープルのリボンがかけられている。
よく見たら中にメッセージカードが入っていて、
『Dear Little Shrimpy
Take care of yourself !
From Octavinelle』
と書かれていた。
〝Little Shrimpy〟――〝小エビちゃん〟だ。
シェラの呼び方と筆跡からしてフロイドが書いてくれたのだろう。
「フロイド先輩が持ってきてくださったんですか?」
「そぉだよー!陸のお見舞いではメロンをあげるんでしょ?オレ知ってるよぉー!」
(それは入院のお見舞いでは……?)
確かにお見舞いにメロンという文化の認識は間違ってはいないのだが、些か大袈裟過ぎる気がする。
しかしフロイドがあまりにも無邪気に得意げに話すものだから、それについて突っ込むのも野暮な気もする。
細かいことは気にせずシェラは受け取ることにした。
「そう、ですね。ありがとうございます」