第8章 6-2. 咬魚の束縛 後編
フロイドはにやりと口角を上げると、小声で呪文を唱えながらマジカルペンを振るった。
シェラはこの光をスカラビアで見たことがある。
これは、治癒魔法だ。
暖かな金色の光がシェラの足首と頭に集まり始めたところで、フロイドが茶目っ気溢れる声と共にマジカルペンをエースの方へ向けた。
「痛いの痛いの、カニちゃんに飛んでけー!」
「えっ……」
「えっ!?」
「ええっ!?」
突然ターゲットにされたエースは慌てふためく。
シェラとデュースは驚愕の眼差しでエースを見る。
シェラを包む金色の光が密度を増し、弾けて消える。
「……、いてっ!いててっ……!!」
「おっ、おいエース!大丈夫か!?」
妙な間の後、エースは腹を押えながらその場に蹲った。
呻き声を上げるエースにデュースは駆け寄ると、介抱しようとエースの顔を覗き込む。
(これは……)
わざとらしく蹲るエース、本気で心配しているデュース。
何を見せられているんだ、とシェラは思った。
意外にもエースは結構演技派だった。要領が良いだけあって、その場の空気も読める。
横目で見上げたフロイドは、案の定にやにやと楽しそうに笑っている。
やがて、くくくっ、と堪えきれずに喉の奥から溢れたような笑い声がエースから発せられた。
「!?」
たじろぐデュースに、顔を上げたエースが、にいっ、と意地悪な笑顔を見せる。
「なーんて、冗談。デュース、本気で騙されてやんの」
「はっ……!?」
遅れてどういうことか理解したようで、デュースの顔がじわじわと赤く染まる。
「小エビちゃんは騙されなかったかぁ。ざーんねん」
「流石にこれは……」
シェラは苦笑しながら、ひとりだけ騙されたデュースを見る。
「なっ、シェラまで……っ!」
「いーじゃん。店で売ってる卵からヒヨコが孵るって信じてたくらいだし、〝愛すべき馬鹿〟ってやつじゃん?」
「うっ、うるさい!誰が馬鹿だっ!!」
エースとデュースの他愛ない言い争いはいつものことであるから、特に気にせずシェラは自分の足に目を向ける。
腫れと内出血が引いていた。
そっと頭に触れると、こんもりと盛り上がっていた大きなたんこぶも無くなっている。
「フロイド先輩流石ですね。捻挫と一緒にたんこぶまで治りました。ありがとうございます」
「でしょー?もっと褒めてよぉ」