第8章 6-2. 咬魚の束縛 後編
浮かない顔をするシェラを見かねたエースが、さっぱりとした口調で言った。
「そうだな。すぐ帰れるようにシェラの荷物を持ってきたんだ」
エースに同調してデュースもシェラに休むよう勧める。
エースとデュースはシェラが目覚めるまで待っていてくれていた。
「ふたりとも、どうして待っててくれたの……?」
「は?シェラ、今更どーしたの?」
「ダチが怪我して気を失っているんだったら心配するのは当たり前だろう」
「そーいうこと」
さも当然のように、ふたりは言った。
〝友達〟という言葉が胸に沁みる。
「……ありがとう」
ふたりの優しさに、シェラは泣きそうになった。
友達、とはこういうものなのか、と改めて思う。
「カニちゃん達やさしーね?ほら、小エビちゃんいいこいいこ」
フロイドが大きな手でシェラの頭を撫でる。
最近フロイドはシェラが落ち込んでいたり暗い表情をしていると、決まってそうする。
どうしてか、フロイドにそうされると心が落ち着く自分がいた。
「ありが……、いっ……!?」
ただ、今日はディスクが頭に直撃した後だったから、結果としてフロイドの手はシェラの頭に出来たたんこぶも一緒に撫でてしまった。
「うわ!でけータンコブ!!……やっぱ後で絞めとくわ」
「だから事故ですから絞めるのはやめてあげてください」
そう言いながら、シェラはベッドから降りようと床に足をつける。
その瞬間、今度は左足首に痛みが走った。
「痛……っ!?」
シェラは今しがた痛みが走った左足を持ち上げ、靴下を脱ぐ。
足首を見てみると、青黒く痛々しげに腫れていた。
「あーディスクが頭に直撃した瞬間に足まで捻っちゃったかー。散々な1日だな」
気絶に、たんこぶに、極めつけは捻挫。
エースが気の毒そうにシェラの足首を見て言った。
「うわ、痛そうだな……。これ歩けるのか?」
「まあ、痛いけど歩けるんじゃない?」
「どれどれー?診せてー」
フロイドはシェラのふくらはぎを掴むと、シェラの捻挫した足を自分の太腿に乗せた。
シェラはされるがまま、フロイドがどうするのかを窺う。
するとフロイドは、マジカルペンを取り出した。
「マジカルペン?」
「リーチ先輩、なにするつもりなんすか?」
「まあ見ててよ」