第8章 6-2. 咬魚の束縛 後編
「いや、シェラバカなの?」
「怪我をして気絶した人を無理矢理起こすわけないだろう……」
エースとデュースが呆れたように返す。
確かに、言われてみればシェラも同じ立場だったら、無理に起こしたりはしないだろう。
「それもそうか……。……ところで、フロイド先輩はどうしてここに?」
「オレぇ?オレは小エビちゃんのお見舞いー。ウチの小魚ちゃんがごめんねぇ。後で絞めとく」
「あぁ、ディスクを放ったのってオクタヴィネルの人だったんですね……。いえ、事故なんで絞めるのはやめてあげてください」
上機嫌な笑顔が急に物騒なものに変わったフロイドを、シェラは冷静に宥める。
「そ、そーっすよ!フロイド先輩、あいつ気絶してるシェラにずっと平謝りしてたから、許してやってくださいって」
「シェラも大事には至りませんでしたし……!」
不穏な雰囲気を醸し出し始めたフロイドを宥めるシェラを、エースとデュースがフォローするのはもうお約束の流れだった。
しかし今日はそこにひとり足りなかった。
「グリムは?」
「ああ、グリムならシェラの監視の目が無いことを良いことに6時限目の魔法史爆睡してたから、今トレイン先生に捕まってる」
「なにをやってるの……」
やれやれ、とシェラは眉間を押さえる。別の意味で頭が痛い。
体力育成の後で眠くなるのも分かるが、せめてうたた寝くらい留めておくか、バレないようにしてほしい。
グリムの授業態度が悪いと、後で小言を言われるのは保護者的立ち位置のシェラなのだ。
シェラは深い溜息をつくと、椅子に座っていたフロイドがベッドに腰を下ろした。
顔にかかる髪をフロイドは指先で払うと、心配そうにシェラの顔を見つめる。
「小エビちゃん、なんか元気ないね。痛いの?」
「……痛いですね。結構思いっきり当たったみたいです」
元気がない、そう言われてシェラの脳裏に浮かんだのは、先程まで見ていた夢。
しかしそうとは言わずに、シェラは元気がないことを怪我のせいにする。
真っ赤な嘘というわけではない。事実、ディスクが直撃した頭は少し動くだけでずきずきと痛む。
ただ、今のシェラは頭よりも胸が痛かった。
「シェラ、とりあえず今日は寮に帰って休めば?なんかぐったりしてるし」