第8章 6-2. 咬魚の束縛 後編
◇ ◇ ◇
「……!!」
長い夢を見ていた。
目を覚ますと、視界に馴染みのない天井が広がっていた。
(ここは……)
ここはどこなのか。なぜ自分はここにいるのか。
未だに夢見心地なシェラは仰向けのまま考える。
「あぁー!小エビちゃん目覚ましたぁ!」
「……!?フロイド先輩……?」
上から、ぬっ、と端正な顔がシェラの顔を覗き込んだ。
ゴールドとオリーブの瞳と視線がぶつかる。
さらさらと流れる黒い毛先がシェラの鼻先を掠めた。
どうしてフロイドがここにいるのだろう。
「おはよーねぼすけ。大丈夫か?」
「シェラ、やっと気がついたんだな。よかった。このまま目を覚まさなかったらどうしようかと思ってた」
耳によく馴染んだ声がふたつ。
エースとデュースもシェラの顔を覗き込んだ。
いつも通りの軽いノリでねぼすけと言いながらも、エースは安堵の表情を見せているし、デュースはシェラの心配をしてくれている。
ふたりを心配させるようなことをしたのだろうか。
いや、したから今までベッドで寝ていたのだろう。
「ここは……、痛っ……!?」
状況がよく理解出来ないシェラは身を起こす。が、頭に鋭い痛みが走り、反射的に顔を顰めてしまった。
「保健室だよぉ。小エビちゃんだいじょーぶ?」
「シェラ、5時限目のマジフトでまたディスクが頭に直撃してそのまま気絶したんだけど、覚えてねーの?」
「そういえば……」
エースの言う通り、この頭痛は頭を強くぶつけた時のような痛みだった。
思い出した。
今日の5時限目は体力育成でマジフトの授業。
魔法が使えないシェラは、マジフトの授業はほとんどコートの中を走り回っているだけ。
その最中にクラスメイトの誰かが放った高威力のディスクが頭に直撃したのだった。
寮対抗マジフト大会の時といい、とことんマジフトに関しては運が悪い。
「それで、今は5時限目が終わったところ?」
「いや、もう放課後よ。だからねぼすけだって言ってんの」
「あー……6時限目トレイン先生の授業だったよね?どうして起こしてくれなかったの?」
トレインの授業を欠席すると後日補習とレポート提出があるのだとか。
補習は別に構わないが、このレポートがなかなか大変らしい。
シェラは恨めしげにエースとデュースを見上げる。