第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編
「あ、あの……、今日の5時限目の体力育成でマジフトをやったんですけど、……その、僕のシュートがシェラちゃんの頭に直撃してしまって……。申し訳ありません……」
情けなく震える声でことの経緯を話す寮生。
フロイドを全く見ようとしないのは、怖くてそれが出来ないから。瞳孔が開いた目で睨まれることを想像すると、まるで金縛りにでもあったかのように身体が動かなくなる。
フロイドがシェラのことを特別気に入っているのは、オクタヴィネル寮に所属する1年にとって周知のこと。
故意ではないとはいえ、そんなシェラに怪我をさせてしまったとフロイドに知られたら後でどうなるか分からない。
そう思ってフロイドには内密にしようと目論んでいたのだが、よくよく考えると、後々シェラの口から聞くより今この場で正直に言って謝っておいた方が後々のリスクが低いと判断した。
「小魚ちゃんさぁ……なにやってんの?」
「ヒッ……!す、すみません……」
怒気と呆れを半々に含んだ声でフロイドが寮生に突っかかる。
再び肩を大きく震わせた寮生は、恐怖のあまり縮こまってしまう。
「それで、シェラさんに怪我をさせてしまったと」
「はい……」
「シェラさんの怪我の具合は?」
ジェイドが冷ややかに後輩に問う。
1年が見上げたジェイドの顔からは、いつもの人当たりの良い柔和な表情が消え、冷たい真顔がそこにはあった。
ある意味フロイドよりも恐ろしく、寮生は背筋が寒くなる思いだった。
「そのまま気絶してしまって保健室に運び込まれたんですが、まだ目を覚ましていないそうで……」
「応急手当として治癒魔法はかけてさしあげましたか?」
「すみません。そこまで気が回りませんでした……」
「打ちどころが悪かったらどうするんです。もしシェラさんになにかあったら貴方の責任になりますが、それに関しては理解されていますか?」
「……」
ジェイドの追及に、寮生は押し黙る。
フロイドに怒られると思っていたが、どちらかといえばジェイドの方が怒っているこの状況は想定外だった。
しかも普段穏やかで落ち着いている分、怒った時の迫力は並ではない。
「ジェイド、もういいです」
今彼を責めても意味が無いと判断したアズールは、怒りを募らせるジェイドを制した。