第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編
「そういうわけじゃねーけど……、とにかくこれくらいにして」
そう言いながらフロイドがシェラのカマーバンドを緩めていく。
ウエスト周りの締め付けがなくなった。
緩いベルトを巻いているような感覚で、動いているうちにウエストでくるくる回ってしまいそうだった。
カマーバンドの緩い着用感にシェラは、ジャケットのボタンは全部閉めて着た方がいいな、と思った。
「そうですよ。シェラさんはこれくらいでお願いします」
フロイドが言わんとしていたことをジェイドは理解したのか、フロイドの意見に同調する。
「なんだかよくわかりませんが……、わかりました」
最後まで意味が理解出来ずにいるシェラは渋々承諾した。
カマーバンドを締めた自分の姿を見ていなかったから、シェラは気づかなかった。
細身とはいえシェラも女子であるから、根本的に骨格が男子と違う。
胸は平たいが、腰周りには男子には無い曲線を有している。
フロイドがああしたのは、カマーバンドをジャストサイズで締めるとウエストのくびれを強調するように見えたからだった。
「あとは、これをシェラさんに差し上げます」
そう言ってジェイドはコンパクトのようなものをシェラに渡した。
開けてみると、それはパープル系のカラーのアイシャドウパレットだった。
シマーな質感のシャドウで、パールのような上品な輝きがある。
ふたりの目元にも同じようにパープルが入っているが、どちらかというとマットな質感で、ふたりの元より整った目元へ鮮やかに色を差していた。
同じパープルのシャドウであるが、シェラの為に用意されたものは、化粧映えする素朴で薄い顔をより華やかに魅せる為のものだった。
「これで皆さんとお揃いのメイクをするんですね」
「はい。目元にパープルのシャドウを入れるまでがモストロ・ラウンジの制服となっています。メイクの仕方は自由ですので、是非ご活用ください」
式典メイクは上手く出来るようにはなったが、その他のメイクも上手いかというとそうではない。
「詰めの直しに出す寮服は10日程で戻ってくるでしょう。初出勤日はアズールから追って連絡をします」
「わかりました」
初出勤は10日後。
それまでに新たなメイク方法を習得しなければ、とシェラは渡されたアイシャドウを見ながら思った。