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泡沫は海に還す【twst】

第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編


「聞きたいですか?」
「大丈夫です……」
食えない笑顔でそう言うジェイドに、シェラは空恐ろしさを感じて話を終わらせようとした。
ジェイドはアズールに生徒の〝情報〟を上納しているらしいから、その中に靴のサイズも入っているのだろう、とシェラは考えた。

ジェイドはシェラの足元に、彼らが履いているものと同じ革靴を置いた。
白と黒のバイカラーのウィングチップのシューズで、小洒落ていながらも内羽根でフォーマルな雰囲気もある、見るからに上等そうな一足。

「やっぱちっちゃ!こんなん履けるの?」
「フロイド先輩の足が大きいだけですよ」
シェラは渋い表情をしながら、用意してくれた靴を履いて立ち上がる。

「サイズどーお?」
「びっくりするほどぴったりです……」
あまりの履き心地の良さにシェラは驚く。
シェラの足の型を取って作ったのではないかと思うほどサイズがぴったりで、新品の革の硬い感触が足の裏に跳ね返ってきた。

「ぴったりで良かった。この靴はフロイドとアズール、そして僕からの入店祝いです」
「え?こんな上等な靴……いいんですか?」
「もちろん。僕達の歓迎の気持ちです。シェラさんも靴に拘りがあるようお見受けしたので、これが1番良いかと思いまして」
「よく分かりましたね」
靴のサイズだけでなくジェイドの推察もぴったりで、シェラは舌を巻く。

誰かに話したことは無いが、アクセサリーや貴金属の類に頓着の無いシェラであるが、唯一靴だけは良い物を履くようにしていた。
〝足元に1番気を遣え〟〝靴は良い物を履け〟、そう教えられてきたからだ。

「いいじゃん。足元とかそーいう細かいとこに気を遣えない奴はナメられるってオレ達の親父も言ってたよぉ」
「おふたりの親御さんは私の祖父みたいなことを言うんですね」
私の祖父、そう言ったシェラの表情が曇る。

未だに記憶は断片的にしか思い出せないが、少なくとも今の自分の思想や行動原理は祖父の教育によるものだった。
記憶が無いのに思想や行動原理に揺らぎがないのは、それがもう魂に刻み込まれているからだった。

断片的に思い出した時に、優しくない記憶だと思ったが、皮肉にもそれがこの世界で生きていく上で役に立っているのも事実で、厳しい祖父の教えの賜物だと認めざるを得ない。
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