第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編
「あの、すみません。一応着替え終わったんですけど、袖の留め方とボウタイの結び方が分かりません」
シェラは部屋の外にいるジェイドとフロイドに声をかけた。
「入っていーい?」
返事をしたのはフロイドだった。
バスルームでの鉢合わせの教訓があるのか、きちんと入っても良いか確認をするようになっていた。
「どうぞ」
シェラが承諾すると、ふたりが部屋に戻ってきた。
「すごい!小エビちゃんがオクタヴィネルの寮服着てる!」
「少し大きいようですが、概ね詰めの直しの範囲内ですね」
シェラの寮服の着用感をチェックすると頷いたジェイドは、椅子を用意してシェラに座らせた。
「カフスはこちらのカフリンクスを使って留めてください」
そう言ってジェイドは、指輪でも入ってそうなボックスを丁寧に両手で開けると、一対の留め具を見せた。
プロポーズでもするような見せ方だな、とシェラは思った。
シェラのそばに跪くと、てきぱきとカフスを留めていく。
その間にフロイドはボウタイを手に取り、シェラの首に巻いた。
一瞬だけフロイドの顔が吐息のかかる距離まで近づき、離れる。
大男ふたりに手取り足取り世話をされていて、シェラは妙な居心地の悪さを覚える。
「フロイド先輩ボウタイの締め方知ってたんですね」
いつもボウタイを外しているから、てっきり知らないのかと思っていた。
シェラがそう言うとフロイドは手を止め、結んでいる途中のボウタイでシェラの首をきりきりと絞め始める。
無論、窒息などしないように手心を加えて。
超至近距離までフロイドの笑顔が近づく。
「こないだもそうだけどさぁ、小エビちゃんオレのことナメてんの?」
「じょ、冗談です……。私のこと殺す気ですか……」
口では謝るが、早く力を緩めろと言わんばかりにフロイドの笑顔を睨めつける。
「シェラさんの足のサイズは23センチでしたよね?」
カフスを留め終えたジェイドが、部屋の隅に置かれた靴の箱の前でシェラに訊いた。
「そう、ですけど、なんで知ってるんですか?」
ジェイドは足のサイズをぴたりと言い当てた。
靴を見ただけで足のサイズが分かったのだろうか。それとも、別のルートで足のサイズの情報を手に入れたのだろうかと、シェラは訝しむ。