第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編
「お待たせしました」
「〝堅苦しい話はつまんなぁい〟と言っていたのはフロイドでしょう」
どうやら目的の場所というのは、オクタヴィネル寮のゲストルームだったらしい。
オンボロ寮のシェラのベッドよりも大きくてふかふかそうなベッドにフロイドが寝転んで待っていた。
フロイドは脚で勢いをつけながらベッドから起き上がると、ハンガーから寮服のジャケットをとって、嬉しそうにシェラに見せた。
「じゃじゃーん!見て見てぇ。ミニサイズの寮服!」
「ミニサイズ……」
見せられたのは、ジェイドやフロイドが着ているものよりもひと回りもふた回りも小さいジャケット。
ミニサイズ。つまりそれはシェラサイズということだ。
「あったんですね」
私が着れそうなサイズ、とシェラはジェイドを見上げる。
「これを機に余剰の寮服を整理したら、1着だけシェラさんが着れそうな2XSサイズの寮服を見つけました」
フロイドに同調してジェイドも自慢げに笑っていた。
フロイドは早く着替えろと言わんばかりに、寮服一式をシェラに押し付けるようにして渡した。
「早速着てみていただけますか?僕達は部屋の外でお待ちしていますので、終わったらお声かけください」
「わかりました」
ジェイドとフロイドが退室すると、シェラは寮服一式を見る。
改めて見るとやはりタキシードのようだった。
とりあえず、模範的なアズールやジェイド着こなしを思い出しながら、シェラは制服のジャケットを脱いでシャツのボタンを外す。
寮服のシャツはウィングカラーのドレスシャツで、首元まできっちり閉めるタイプのものだった。全て閉めると、フロイドが窮屈だという理由がなんとなく分かった気がする。
カフスは折り曲げて専用の留め具で留めるタイプのものだが、留め方がいまいちよく分からない。
スラックスを寮服のものに履き替えると裾が5センチ以上余って、脚が短いことを突きつけられたような気分になった。
裾だけでなくウエストも余り、支えていないとそのまま下がってきそうだった。
シェラはサスペンダーを探すと、金具を留めてスラックスを肩から吊る。
そしてそのサスペンダーの金具を隠すようにカマーバンドをつけた。
鏡で今の時点の姿を見ると、服に着られている感が否めないが全く似合っていないわけでもなくて安心した。