第2章 1. 図書館の攻防
「今から図書館に行こうとしてたところです」
「ふぅん。課題?えらいねぇ。オレもついて行こぉっと!」
上機嫌で笑っているが、シェラの身長よりも頭1つ分以上大きい191センチの大男に見下ろされると圧がすごい。
(ついてこないで結構です)
そうシェラが心の中で悪態をついたとて、フロイドの笑顔は有無を言わせない。思わず後退ったシェラの1歩を半歩で詰めてくる。
「シェラ、オレたち今日は寮に帰るな……!」
「まっ……また明日な!」
「オレ様も先にオンボロ寮に帰るんだゾ……!」
(は?)
あまりに見事は手のひら返しに、思わずシェラは半眼で彼らを見る。
「あれぇ、カニちゃん達帰っちゃうの?」
フロイドも一緒に図書館に行くとなった瞬間、頬を引き攣らせたエース達はそそくさと逃げるように鏡舎へ向かって踵を返した。
そして調子よく『じゃあな』とシェラに一瞥し早足で廊下の向こうへ消えていった。
(私を置いて逃げてった)
「じゃあ小エビちゃん行こっかぁ」
「はい」
エース達が先に帰ったことについて、さほど気に留めていない様子のフロイドは目線で先を促す。
シェラはフロイドに気づかれないように溜息をつくと、仕方なく歩き出した。
◇ ◇ ◇
高さの全く合わない肩を並べてシェラとフロイドは図書館へ向かう。
予期せぬ裏切りでフロイドとふたりきりになってしまったシェラ。
嫌ではないが、学年も違うし共通の話題も無い。気分屋で飽き性で掴みどころの無いフロイドを楽しませるような会話の引き出しがあるかというと、それも微妙だ。
それでもずっと無言なのも気を遣うから、シェラは当たり障りのない会話をして間を持たせようと考えた。
「どうして私はエビなんですか?」
「んー?初めて会った時にエビみたいにビクッてなってたから」
「そ、そうですか……」
つまりあまり良い意味ではないらしい。
大男ふたりに脅迫されてビクッとしない人の方が珍しい気がするが、そうとは言わずシェラは曖昧な表情を浮かべた。
会話が終了してしまった。これでは図書館まで間が持たない。
次はどんな話題を振ろうかという気持ちと、勝手についてこられたのに何故こちらが気を遣わねばならないのかという気持ちが、シェラの中でせめぎ合う。