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泡沫は海に還す【twst】

第2章 1. 図書館の攻防


シェラは顔を上げた。
どこからともなく現れた彼は機嫌良さげに、にこにこと笑いながらシェラのことを見下ろしている。

シェラの悩みの種、2つ目。
オクタヴィネル寮長のオーバーブロッド事件以降、なにかと彼によく絡まれること。

彼の名前はフロイド・リーチ。
正体はウツボの人魚。シェラ達の先輩にあたる2年生で、海の魔女の慈悲の精神に基づくと云われているオクタヴィネル寮に所属している。
巷では彼と、双子の兄弟であるジェイド・リーチ、寮長のアズール・アーシェングロットの3人でオクタヴィネルの悪徳3人組と囁かれているとか。慈悲の概念がよく分からなくなりそうだ。

「ヒッ……!」
「フロイド先輩……っ!」
彼に対して良い印象が無いエースとデュースのふたりは、上擦った声を上げて1歩後退りをした。
シェラの腕の中で寝ていたグリムもいつの間にか目を覚まし震え上がっていた。

それもそのはず。
先日の期末テストにて、アズールと契約した彼らは契約条件である成績上位50人に入ることが出来ず違反の代償として頭にイソギンチャクを生やされ、オクタヴィネル寮内のモストロ・ラウンジで過酷な労働を強いられていた。
かくいうシェラもそんな彼らを解放してあげようとした過程で、人魚姿のリーチ兄弟に追いかけ回されている。
長いし速いしで、いくらデュースに度胸があるとか評されていても流石にあれは本当に怖かった。

シェラが初めてフロイドと話したのは大食堂。
モストロ・ラウンジでの強制労働についてエースやデュース達がリーチ兄弟に抗議した時のこと。
文句を言う彼らに対してフロイドが放った『お前らは文句言える立場じゃねぇんだよ。黙ってろ』の、最後の部分が強烈に印象に残っている。思わず背筋が寒くなるようなドスの効いた声だった。

だから、シェラの彼に対する第一印象は良くなかった。むしろ悪かった。

「こんにちは、フロイド先輩」
「ねぇねぇ小エビちゃんどこ行くの?オンボロ寮に帰るの?オレと遊ぼぉよ」
第一印象は最悪に近かったが、フロイドが物騒な発言をしたり行動を起こすのはあくまで契約違反者や彼の癪に障るようなことをした相手のみで、あれ以降シェラに危害を加えるようなことはしていない。
しかも危害を加えるどころか、姿を見つけると上機嫌で絡んでくる。
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