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泡沫は海に還す【twst】

第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編


「シェラさんの働きには期待しています。こちらこそ、よろしくお願いします」
契約書の最終確認を終えたアズールは、シェラへ手を差し出した。
シェラはその手を取ると、契約締結の握手を交わした。

「雇用契約については以上ですので、後はジェイド達にお任せします」
「はい。ではシェラさん、こちらへ」
ジェイドに促されるままシェラは席を立ち、アズールに一瞥をするとVIPルームを後にした。


シェラはジェイドの後についてオクタヴィネル寮内を歩いていた。
壁一面ガラス張りの外に広がる海はいつ見ても壮観で、ついつい見蕩れてしまう。

「あの、フロイド先輩は?」
結局雇用契約を交わしている間には戻ってこなかったフロイドについて、シェラは訊いた。

「フロイドなら先に行って待ってますよ。〝堅苦しい話はつまんなぁい〟だとか」
澄まし顔から飛び出すフロイドの物真似にシェラは閉口する。
普段のジェイドの話し方と、フロイド特有のゆるい話し方の落差が激しくて反応に迷う。

「似て……ないですね」
つい率直な感想が口をついて出た。
するとジェイドは困ったように眉を下げて笑った。

「なかなか手厳しいですね。結構渾身の出来だと思ったのですが」
「フロイド先輩がたまにジェイド先輩の真似を見せてくれるんですけど、かなり再現度高いですよ」
真後ろで声真似をされたら、ジェイドに声をかけられたと勘違いしてしまうくらい似ている。
それに加えてフロイドがするジェイドの物真似は、声だけでなく表情の作り方までかなり似せてきている。
そして何故か毎回『もっと近くでよぉく見てよ』と言ってくるから、『そんなに近づかなくてもちゃんと見えてます』と返すところまでがセットだった。

「では、必要な時はフロイドに僕の影武者を頼みましょうか」
「清々しいくらいあっさりと兄弟を売るのですね……。おふたりとも、背格好はそっくりですけど、よく見ると目元は違いますよね」
「おや。シェラさんはそんな所に気がつくほど、僕達の顔をよく見てくださっているのですか?」
そう言うとジェイドは足を止めて少し屈むと、シェラの顔を上から覗き込んだ。
ジェイドの髪の長い黒色のひと束の毛先がシェラの頬を掠める。
オリーブとゴールドの瞳が、シェラをじっと見つめる。
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