第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編
シェラは紅茶は無糖派だと、ジェイドは理解している。
紅茶に含まれるカフェインと、レモンに含まれるクエン酸が疲労回復にいいという。
「ありがとうございます」
ジェイドが用意してくれた淹れたてのレモンティーを、シェラはゆっくりとひとくち嚥下する。
じんわりと身体の芯まで温まるようだった。
「今日も美味しいです」
ジェイドが淹れてくれる紅茶はいつも美味しい。
微かに表情が柔らかくなったシェラは素直にそう伝える。
「ありがとうございます。そう言っていただけて光栄です」
シェラの褒め言葉に、澄ましたジェイドの顔に喜色が浮かぶ。
一字一句見落としがないように、丁寧に時間をかけて契約書を確認したシェラが顔を上げた。
それを読了と判断したアズールが口を開く。
「給仕での雇用契約ですが、キッチンも希望しますか?」
「いえ、お皿に料理を盛るのが上手くないのでこのまま給仕のみでお願いします」
シェラがそう答えると、アズールは思い当たる節があったのか、目を逸らして笑う。
アズールの後ろに控えていたジェイドも、全く同じようにして笑っていた。
(失礼だな……)
「なにを笑っているのですか……」
笑いを堪えきれていないふたりを半眼で見つつ、シェラはレモンティーを飲む。
「いえ、失礼しました。では、契約書通り給仕メンバーとして働いていただきます」
「わかりました」
気を取り直したものの、微妙に笑いの余韻が抜けきっていないアズールの確認に、シェラは了承する。
「なにかご不明点などはありませんか?」
「あの、時給についてですが……」
契約書についてひとつ気になったことがあり、シェラは切り出す。
「給料については、あなたの仕事ぶりで今後上がっていきますのでご安心を」
「いえ、そうではなくて、高校生のアルバイトですよね?こんなにいただいていいんですか?」
高校生のアルバイトの時給にしてはもらいすぎな気がすると、シェラは至極真面目にアズールに問う。
「は……?」
シェラの口から飛び出した質問が想像と真逆だったらしく、アズールの表情が固まる。
代わりにジェイドがシェラに訊いた。
「失礼ですが、シェラさんの故郷の相場では、一体いくらだったのですか……?」
「確か……」