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泡沫は海に還す【twst】

第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編


◇ ◇ ◇

モストロ・ラウンジのVIPルームでは、既に寮服に着替えたアズールとジェイドが待っていた。
ふたりはフロイドに連れてこられたシェラの姿を見ると、柔和な笑顔を浮かべた。

「シェラさん、やっと来ましたね」
「お待ちしておりました。どうぞ、お座り下さい」
「すみません。遅くなりました」
「とんでもない」
シェラはジェイドに促されるまま、革張りのソファに座る。
以前ここに来たのはイソギンチャク事件の時で、その時の印象しかないシェラはぴりっとした面持ちでスラックスの膝をぎゅっと握る。
フロイドは着替えの為か、シェラを送り届けるといつの間にか居なくなっていた。

「ジェイド、シェラさんにお茶を」
「かしこまりました」
アズールがジェイドに命ずると、ジェイドはお茶の用意で一旦退出した。

「早速アルバイトの雇用契約についてお話しましょう」
アズールはシェラの正面に座ると、シェラの前に書面を差し出した。〝Contract〟と書かれた横にオクタヴィネル寮のエンブレムが入っている。サイン用には魚の骨を模したペンが用意された。
シェラは心のどこかでこの契約書が〝黄金〟でないことに安心していた。

「そんなに緊張なさらなくても、普通の雇用契約書ですよ」
「はい……」
鷹揚にソファに腰掛けながらも、アズールはしかとシェラの顔を見つめていた。
些細な表情の変化さえも見逃さないアズールに、シェラは口を噤む。

渡された雇用契約書に、シェラは見落としが無いよう念入りに目を通す。
アズールを疑っているわけではないが、イソギンチャクの一件でこういった類の書類は必ず最初から最後まで目を通すべきだと学んだからだ。


「失礼いたします」
4分の1ほど契約書に目を通したところで、シルバートレイにティーセットを乗せたジェイドが戻ってきた。

「お茶をご用意しました」
ジェイドはシェラの傍らに跪くと、無駄のない美しい所作でティーカップに紅茶を注ぐ。
ふわりと華やかな香りが広がった。その中に、柑橘系の爽やかな香りを感じる。
見ると、カップの中に輪切りのレモンが浮かんでいた。

「授業後でお疲れでしょうから、今日はレモンティーにいたしました」
ジェイドはシェラを見上げながら品良く笑う。
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