第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編
どこ、と言いながらシェラは拳をぐっと握ってみせる。
手の動きに合わせて赤い魔法石がきらりと輝いた。
「ここだな」
「ここでしょー」
エースの代わりに、デュースとフロイドが同時に答えた。
デュースは自分の右手の、フロイドは自分の左手の中指の付け根の骨――拳骨を示す。
「そう。正解」
「えぇ!?」
即答で正解を言い当てたデュースとフロイドに、エースはまたもや引いている。
「てか、なんでふたりともそんなこと知ってんの!?」
「え?常識だろう?」
「そー、ジョーシキ」
口を揃えて常識だと言うデュースとフロイドに、シェラも控えめに頷く。
「えー!?シェラまでそんなこと言うの!?」
「エース、うるさいんだゾ……」
エースが度肝を抜かれたように声を上げた。
グリムは後ろで短い前足を組んで呆れている。
シェラは再び小さく頷いた。
さっきからエースはリアクションに忙しそうだ。
「じゃあその指輪って、力の指輪兼メリケンサック的な感じ……?」
「まあ、そういうことになるね」
「シェラもワルだ……」
何食わぬ顔で肯定したシェラ。
エースは溜息をつきながらシェラもワルの仲間入りさせた。
「失礼な。私はワルじゃない……と思ってるけど」
ワル認定されたのは少し不服だが、指輪をメリケンサックとして活用していることを考えたら否定しきれず、シェラは居心地の悪い表情を浮かべる。
「えーいいじゃん。オレ強い雌好きだけどなぁ」
フロイドがさらりとそう言うと、シェラの肩を抱き寄せた。
驚いたシェラはフロイドを見上げると、邪気のないご機嫌な笑顔がそこにはあった。
「ところでシェラ。こんなところで油売ってていいわけ?アズール先輩が待ってるんでしょ?」
「あ、そうだった」
エースに言われるまで、アズールを待たせていることを忘れかけていた。
あまり遅くなるとチクチク小言を言われそうだ。
「フロイド先輩、行きましょう。アズール先輩に怒られたくありません」
シェラの肩を抱くフロイドの手をトントンと叩き、離してくれるよう促す。
「そぉだね。3人とも、またねぇ」
「グリム、そんなに遅くならないと思うから寮で待ってて」
シェラはグリムにそう言うと、フロイドと共にモストロ・ラウンジへ急いだ。