第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編
「この指輪についてる赤い石は魔法石です。力や筋力を増強させる魔法が付与されてます」
魔法石は魔力を帯びた宝石のこと。
宝石といってもダイヤモンドのような類では無く、普通に購買でも買えるようなもので、価格もそれ程高価ではない。
魔力を帯びた石であるから、加工の段階で魔法を込めれば、石単体で効果を発揮してくれる。
その最たる例が、大食堂のシャンデリアの魔法石である。
ただ、あれと比べるには大きさも、質量も、込められた魔法の規模も違いすぎるが。
シェラはフロイドの手から指輪を取り返すと、それを元あった右手の中指に嵌めた。
「でも、なんでそんな力を増やすような指輪なんてしてんの?」
そう言いながらフロイドは、自身の長い指を絡めるようにして、指輪を嵌めたシェラの手を再び下からすくい取った。
「これは護身用です」
「護身……?なに?小エビちゃんに乱暴するような奴がいんの……?」
それまでのゆるい話し方から一転、地を這うような低い声でフロイドは聞き返した。
頭上から不穏な空気を感じ取ったシェラは、一旦フロイドから離れると、慌てて弁解する。
「は、初めに言っておきますけど、最近はそのようなことはありません。けど、この学校に入学してすぐの頃は一方的に難癖つけられたり、たかられたりしたことがよくありました。……私は身体が小さいからナメられやすいんです。この指輪は致し方ない〝正当防衛〟用ですよ」
問題児の多いこの学園では、教師の目の届かない場所での強請りやたかり、カツアゲは日常茶飯事。
そして小柄な上に細身で尚且つ魔法が使えないとなれば、シェラは格好のターゲットであり、侮って狙ってくる。
そう言った問題児達にとって、シェラに武術の心得があることは大誤算。
致し方なく〝正当防衛〟といって次々に返り討ちにしていった結果、シェラが初めに断りを入れたように、最近はそういったことはめっきり無くなった。
「最近は、ってことは前はあったってことだろ……?」
シェラがフロイドを宥めても、フロイドはその矛を収めてくれない。
怒気をはらんだ低い声と殺気立った様子に、護身は失言だったとシェラは反省した。
(どうしよう、すっごく怒ってる……)
今にも、過去にシェラに難癖つけてきた相手を洗い出して絞めに行きそうな勢いだ。