第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編
「お疲れ様です。あの、大きな声でひとのことを呼ばないで頂けますか。恥ずかしいです」
シェラはフロイドを見上げて視線を合わすと、眉を寄せながら釘を刺す。
「てへ、ごめーん」
「まったく……」
なんだか最近も同じようなやりとりをした気がする。
悪びれた様子ゼロで再びシェラの頭を撫でるフロイドと、呆れつつもそれを受け入れているシェラ、という状況に、後ろで見ていたエース達は驚いて目を白黒させている。
驚愕しているエース達に気づいたフロイドは、上機嫌な笑顔を浮かべて手を振った。
「あっ、カニちゃんサバちゃん、それにアザラシちゃんも、お疲れぇー」
「フロイド先輩お疲れーっす」
「リーチ先輩、お疲れ様っす!」
フロイドに声をかけられたふたりは、普段と変わらぬ調子で話に加わる。
「フロイド先輩重いです。頭に顎を乗せないでください」
後ろからシェラの両肩に肘を置き、頭に顎を乗せるフロイド。
フロイドが喋る度に、顎の動きに合わせて頭に振動が伝わる。
これだけ身長差があると、肩が上手い具合に肘置きにされる。
「オイ、フロイド!迎えに来たって、シェラをどこに連れてく気なんだゾ!」
グリムだけは普段と同じ調子というわけにはいかず、やや喧嘩腰でフロイドに噛みつく。
「どこって、モストロ・ラウンジだよぉ。今日この後バイトの雇用契約と小エビちゃん用の寮服のサイズ合わせするんだぁ」
いきむグリムを躱すように、フロイドは飄々とした態度で答える。
「そういうことだから早く行こー。あんまり遅いとアズールに小言を言われちゃうよ?」
「わかりました。から、離してください」
顎を乗せるのは止めてくれたが、未だに肘は両肩に乗せられたまま。
シェラは革グローブを嵌めた手で、組まれているフロイドの手に触れると、トントンと叩いた。
「あ、そーだ」
思い出したかのようにフロイドは声を上げながらシェラの右手をとると、革グローブをするりと外した。
中指に指輪が嵌められたシェラの華奢な手が露になる。
フロイドは、シェラの指に嵌められた赤い石が数個ついた金色の指輪を外すと、それをかざすようにして見た。
「小エビちゃんやっぱ指輪つけてる。アクセサリーとかつけるんだぁ」
「ああこれは、指輪型の魔法道具です」
「指輪型の魔法道具?ナニソレ」