第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編
不服そうにグリムは声を上げた。
シェラがアルバイトをすることもそうだが、修繕費と労働費を請求されていることにも納得がいっていないらしい。
シェラはグリムのふわふわとした顎を撫でながら、憤るグリムを諭すようにして言った。
「もし踏み倒しでもしたら、リーチ兄弟……ジェイド先輩とフロイド先輩が取り立てに来ると思うよ」
過去に1度、リーチ兄弟が未収の対価を回収する為の〝話し合い〟をしている場面に遭遇したことがある。
黒ずくめの寮服姿で長身なのも相まって、遠目から見ても背筋が寒くなるような圧力があった。
あれはどこからどう見ても話し合いではなく取り立てだ。
それに、イソギンチャクの件でオンボロ寮も差し押さえられたことがある。
そんな彼等が踏み倒しを見逃すわけが無い。
もし踏み倒そうものなら、徹底的に取り立てられ骨の髄まで搾取されることを覚悟した方がいい。
「う……、それはイヤなんだゾ……」
リーチ兄弟がオンボロ寮の扉を蹴破って取り立てにくる姿を想像したのか、グリムが顔を引き攣らせている。
その隣で、同じような想像をしたのか、エースとデュースもついでに震え上がっている。
シェラだけは冷静で、『マドルがもらえるからツナ缶買ってあげるよ』と言ってグリムを宥めた。
そんな話をしていると、廊下を全力疾走するような騒がしい足音がひとつ聞こえてきた。
そしてそれは、シェラ達のいる教室へ徐々に近づいてくる。
(誰?騒々しいな……)
「Slow down!リーチ弟!廊下は走るな!」
廊下の方で、クルーウェルの叱責する声がした。
シェラと3人は顔を見合わせる。
リーチ弟。彼等の間に兄も弟も無いだろうが、少なくともクルーウェルがリーチ兄と呼びそうな方は、アズールと同じで廊下を走ったりはしなさそうだ。
「小エビちゃん!迎えに来たよー!」
案の定、廊下を駆け抜けて教室にやって来たのはフロイドだった。
扉を開けて大きな声でシェラを呼んだ。
その瞬間、教室に残っているクラスメイト全員の視線がシェラへ向いた。
意図せず大注目を浴びてしまったシェラは、妙な気まずさを感じながら無言でフロイドの元へ出向く。
「小エビちゃん、お疲れー」
シェラがやって来ると、フロイドは可愛らしい笑顔を見せてシェラの頭を撫でた。