第7章 6-1. 咬魚の束縛 前編
長いようで短かったホリデーが終わり、シェラはいつもの賑やかな日常に戻っていた。
1月上旬。今日もしんしんと雪が降っていて、窓の外は一面銀世界。
それでも学園内は暖かい。スカラビアのトラブルに巻き込まれた時にオンボロ寮のゴースト達がシェラ達の代わりに火の番をしていてくれて助かった。
そうでなければ、薪が貰えずへそを曲げた火の妖精達が消えてしまって、今頃極寒の中で過ごしていただろう。
ホリデー明け初日の終業後。クラスメイト達は休み時間中に話しきれなかったホリデー期間中の土産話に花を咲かせていた。
「え。シェラ、モストロ・ラウンジでバイトすんの!?」
「そうなんだゾ!コイツ、オレ様に何も言わずに勝手に決めて来たんだゾ!!」
「シェラ、あの3人に何か弱みでも握られたのか……?」
このホリデー期間中にあったことの報告として、シェラはモストロ・ラウンジでアルバイトを始めることをエースとデュースに打ち明けた。
エースはぎょっとして目をむいているし、デュースはシェラが脅されているのではないかと心配している。
グリムにはあの日オクタヴィネルから帰ってすぐに伝えたのだが、未だにシェラが相談も無しにアルバイトをすると決めたことに納得していないようだった。
「そういうわけじゃ……いや、そうなのかもしれないけど……」
デュースは、シェラが脅され強制労働を強いられているのではないかと思っている。
デュースを安心させる為にそれを否定しようとしたのだが、アズールの勧誘を受けるしか道がなかった状況なだけに、否定しきれずシェラは口ごもる。
「スカラビアから逃げた時、オクタヴィネルに不時着したんだっけ?」
「そう。その時にスカラビアの追っ手から助けてもらったんだけど……」
「大方、その時に傷ついたラウンジの什器の修繕費と3人分の労働費を請求してきて、払えないのならアルバイトをしないかと持ちかけてきた、ってところ?」
「そういうところ」
流石は要領の良いエース。断片的な話だけで状況を理解してくれた。お陰で話す手間が省けた。
シェラはエースが言ったことに対して頷いた。
「確かにアーシェングロット先輩は何度かシェラにバイトしないかって誘って来てたしな」
「そんなの払わなくてもいいんだゾ!!」