第2章 1. 図書館の攻防
「……私、小さい頃から〝馬鹿でもなんでもいいから筋は通せ〟って言われて育ってきた」
「そうか。確かに筋を通すのは大事だよな。僕はその通りだと思う。シェラは素晴らしい親御さんを持ったな」
デュースとしては、この手の考えには大賛成らしい。
うんうん、と感心したようにご満悦の表情で頷いている。と、思いきや急にハッと何かを思いついたようで、顎に手を添えながら考え出した。
「もしかしてシェラが度胸があって男前なのって、今まで数え切れないくらいの修羅場を経験してきたからか……?」
「おーい、デュース。シェラまでワルにしようとすんなよ」
「そうだよ。私は平和主義だよ」
一方的に絡まれて難癖つけられるような不可抗力な場面ならまだしも、無駄な喧嘩はしないに限る。
「元ワルデュースは放っておいてさ、その他になにか思い出したことはあんの?」
エースは、シェラの腕の中でぐっすりのグリムの顎を撫でながら訊いた。
「あとは、家族構成くらいかな。その他はなにも」
シェラも指先でグリムの顎をくすぐる。
眠っていても顎に触れられると気持ちいいらしく、グリムはゴロゴロを喉を鳴らしている。
「そっか。でも、例えほんの少しでも思い出せてよかったじゃん」
「そうだね。ありがとう。思い出そうとして思い出せるものでもないから、まずは元の世界に帰る手がかりを探すことが先決かなって思ってる」
「それについては学園長からは音沙汰無しだもんなー。あの人本当に探してんのかぁ?」
頭の後ろで手を組んだエースは呆れたような口調でやれやれと言っている。
学園長のクロウリーは様々な問題を押し付けてくるが、元の世界に帰る方法に関しては本当に探しているのかと疑ってしまう程、音沙汰が無い。
シェラ自身も図書館で文献を漁ってみてはいるものの、未だに手掛かりは掴めずにいた。
そもそも授業に遅れをとらないことがやっとのシェラでは、古い文献は書いてあることが難解で半分も理解が出来ない。
未だに記憶も戻らず帰る方法も分からない。それがシェラの悩みの種の1つ目。
「学園長も忙しいんだよ、きっ……」
「あぁ、小エビちゃん、見っけぇ」
眼前に大きな影が現れる。
シェラの発言に甘い声が被せられると、行く手にやたら背の高い男が立ち塞がった。