第6章 5. 人魚の純情
雌であるのに雄以上に肝が据わっていて、ジェイドやフロイドに臆さず接する。
物事を俯瞰で捉え公平に判断する聡明さを持つ反面、危険な目に遭っても自分の信念を貫き通す愚直な頑固さを持つ。
どれをとってもフロイドには魅力的で、気づいたら目が離せなくなっていた。
しかしフロイドが惹かれたのは、シェラの凛とした強さだけでは無かった。
それ以上に、フロイドの心を掴んで離さないものがあった。
「それに、たまに見せてくれる笑顔が……可愛い」
ポーカーフェイスという名の仮面の下に隠れた、たおやかな花が綻ぶような、真珠のように無垢であどけないシェラの笑顔を思い出し、はにかみながらフロイドは言った。
ジェイドの反応を待つことなく、淡いため息ひとつ分の間ののち、フロイドの唇はシェラへの純粋な想いを紡いだ。
「オレさぁ……小エビちゃんのことが、好きなんだぁ」
水彩絵の具が水へ溶けて色づきながら広がるように、〝好き〟という気持ちを言葉にすると、嬉しくて、幸せで、温かい気持ちが、胸いっぱいに広がった。
「……それは、お気に入り、という意味でですか?」
一応語尾に疑問符はついているが、そんなものは建前でしかない。
フロイドの本心を、ジェイドが分からないはずがない。
「ううん。違うよぉ。ちゃんと、雌として……女の子として好き」
思い返しても、ジェイドに対してこんなに真面目に誰かへの想いを告白するのは初めてだった。
いや、ジェイドに限らず、今まで誰にも話したことがない。
それもそのはず。
なにせ、人生で初めて明確にひとりの女の子に対して恋をしたのだから。
「オレの番になって欲しいなぁ……」
シェラにも好きになってもらいたい。
もしも願いが叶うのなら、この先も番として――パートナーとして一緒にいたい。
陸よりも危険が多い海で暮らす人魚にとって、好きという気持ちは生半可な覚悟で口にしていいものでは無い。
相思相愛の関係は、番となることの約束の意味も含んでいる。
番として、一生守る覚悟が無いと、求愛はしていいものではなかった。
「フロイド、あなた、わかっているんですか?」
言外に意味を含むような確認。
落ち着いた声ではあるが、フロイドの覚悟を問うような言い方に、その場の空気がさあっと冷たくなる。
「シェラさんは……」
「わかってるよ」