第6章 5. 人魚の純情
◇ ◇ ◇
「ねぇジェイド、起きてる……?」
「はい。どうしました?」
仰向けに寝転んで視線は天井のまま、フロイドは反対側のベッドにいる双子の片割れに声をかけた。
時刻は深夜。日付をこえる頃。
薄い青紫色の間接照明のみが頼りの部屋。その暗さと静けさは故郷の深海を思わせる。
「今日さぁ、昼間小エビちゃんが来てくれて楽しかったねぇ」
昼間の出来事を思い出しながら、フロイドはからからと無邪気に笑う。
暗くて何も無い深海を抜けた先に、色とりどりの珊瑚礁が広がるように、退屈で色の無いような時間が、シェラが来たことによって一気に色づいたような気分だった。
「ええ、シェラさんも本当に律儀な方ですよね。色々とお世話になったお礼、といってわざわざお菓子の詰め合わせを持ってきてくださって」
「ほーんと、真面目だよねぇ」
フロイドに背を向けるようにして、壁の方を向いているジェイド。
フロイドからジェイドの表情は分からないが、同調した声が穏やかだったからきっと同じように笑っているのだろう。
「それにさぁ、ホリデー明けからラウンジで一緒に働いてくれるの、嬉しいなぁ。すっげー楽しみ。早くホリデー終わらねーかな」
今まではモストロ・ラウンジの開店作業があるからと言って、シェラと一緒に過ごしていても、ある程度で切り上げなくてはならなかった。
しかし、シェラもこれから一緒に働くのならば今よりももっと一緒に過ごす時間が増える。
そのことが、本当に楽しみで、嬉しかった。
思わず駆け寄り、小さなシェラの身体を思い切り抱きしめてしまうほど。
「随分とシェラさんのことを気に入っているのですね。……飽き性なのに珍しい」
しん、と静まり返った部屋にジェイドの声が響く。
抑揚の無い言い方は、なにかを探っているようにも聞こえる。
しかしフロイドはそれについて何も言わず、ジェイドの言葉を素直に肯定した。
「うん。だって、小エビちゃんちっちゃいのに度胸があって反応おもしれーし、オレらのことだって怖がらねーし、あぁでも、真面目過ぎて危ういところもあるよねぇ。それに……」
シェラの行動や言動をひとつひとつ丁寧に思い返すように、フロイドはシェラの好きなところを並べていった。
「それに……?」
ジェイドは続きを促す。