第6章 5. 人魚の純情
「僕は実力を正当に評価し、給料に反映させます。ジェイドとフロイドが作る美味しい賄いもつきますし、マドルももらえる。あなたにとっても悪い話ではないでしょう?」
お互いにとってwin-winになる契約であると、アズールは主張する。
確かに、シェラには今すぐ一括で払えるような経済力は無い。
かと言って踏み倒すわけにもいかず、分割払いを打診されているのなら、不本意ではあるが素直に従うのが1番双方にとって不利益が起こらない気がする。
今まで、元の世界に帰る方法を探す時間をとる為にアルバイトの誘いを断ってきたのだが、これだけ探して未だ手がかりすら無い。
元の世界に帰る方法が分からない今、この世界で長く過ごすかもしれないのなら、収入があった方が安心なのも事実。
シェラは観念したように大きく息を吐く。
「……わかりました。アルバイトのお誘い、お受けいたします」
シェラがアズールへ了承の旨を伝えると、間髪入れずに厨房の方から弾んだ明るい声が響いた。
「小エビちゃん、モストロ・ラウンジでバイトしてくれるのー!?」
こっそりフロイドは一連の話を聞いていたらしい。
シェラがアズールの勧誘を承諾すると同時に、とても嬉しそうな様子でシェラに駆け寄り、ぎゅうっと抱きしめた。
勢いのあまり、シェラの両足が床から離れる。
「痛……っ、ちょ、フロイドせんぱ……っ、折れ……っ」
「嬉しいなぁ。小エビちゃん賄い何食べたい?パスタ?ピザ?オレ、小エビちゃんの為に美味しい賄い作るねぇ」
「フロイド!シェラさんから離れなさい。失礼ですよ」
「失礼……とかよりも、痛っ……!折れます……っ」
気が早いフロイドと、それを叱るアズール。
いきなりフロイドに思い切り抱きしめられたシェラは、肋骨が軋むような痛みに呻きながら、解放してくれるようフロイドの背中を叩く。
頭の片隅で、ギュッと絞めるというのはこういうことなのかと考えずにはいられなかった。
「あ、ごめーん」
「少しは手加減してくださるとありがたいです……。あばらが折れるかと思いました」
やっと解放されたシェラはフロイドを見上げ、眉を寄せながらひとつ息をつく。
「ごめんごめん。小エビちゃんと一緒に働けるって思ったらさぁ、嬉しくってつい」
「まったく……」