第6章 5. 人魚の純情
どう説明しよう、とシェラは頭をひねる。
考えた末、言葉では上手く説明出来ないという結論に至る。
シェラが頭を悩ませていると、フロイドが席を立って厨房へ向かった。
少しして戻ってくると、シェラの目の前に耐熱の器とお湯の入ったティーポット、ティースプーンと大きさの違う泡立て器を数種類並べた。
「口で説明するより、実際に見せた方が早いじゃん」
フロイドがにやりと口角を上げる。
作れ、ということだろうか。
確かに百聞は一見に如かずという言葉はあるし、必要なものも揃っている。
しかし、シェラは抹茶なんて点てたことない。
「抹茶なんて点てたこと無いので、上手く作れるかどうかは保証出来ませんよ」
「問題ありません。今聞いたばかりの僕達が作るより、知識のあるシェラさんが作る方が確実です。さあ、お願いします」
シェラとしては、あまり自信が無いから実演したくなかったのだが、それをアズールが牽制した。
有無を言わせないアズールの笑顔に、シェラは渋々ティースプーンを手に取った。
器に粉末のグリーンティーをスプーンで5杯ほどすくって入れると、それと同量のお湯を注ぐ。
(確か、こんな風だった気がする……)
頭の中で抹茶を点てている様子を想像しながら、緊張した面持ちで1番小さい泡立て器を手に取った。
それを細かく動かして抹茶を泡立てていく。
手の動きに合わせて、芳醇なお茶の香りがふわりと立ちのぼる。
きめの細かい泡が茶の表面を覆ったところで、シェラは器をアズールに渡した。
「これが抹茶というのですか?」
「クリーミーなグリーンの色合いも、香りも良いですね」
アズールとジェイドは感心したように、点てられた抹茶を見つめている。
そこへ、フロイドが横から手を出して器を取ると、シェラが点てた抹茶をひとくち口に含んだ。
「うわ、にっが!!」
想像以上に苦かったのか、フロイドは眉間に皺を寄せている。
抹茶がなんであるかを知っているシェラからしたら、そのまま飲んだら苦いのなんて当たり前である。
「当たり前じゃないですか。当然このままだと苦いです」
半眼でフロイドを見つつ呆れた口調で言うと、シェラはテーブルに置かれたシュガーポットを開けて、点てた抹茶に砂糖を加える。