第6章 5. 人魚の純情
「物珍しいもの……異世界人の私からしたら、ここで目にするものは全て物珍しいですけどね」
そう言いながら、シェラは気づく。
このナイトレイブンカレッジ内で目にするものは、異世界人の自分にとって全て珍しいもの。
では、その逆。
シェラの故郷にあって、ここに無いものは、全てこの学校の生徒にとって珍しいものなのではないか。
シェラは既存のメニューと、新メニューの企画書を手元に集める。
念の為、企画書に関しては見てもいいか断りをいれると、アズールから『ええ、どうぞ』と、快諾が返ってきた。
この2つを見比べて、シェラが知っているものでひとつ、ここには無いものに気がついた。
故郷では大体どこのカフェのメニューにも載っていて、苦味と甘み、香りが楽しめる飲み物。
牛乳とも相性が良く、スイーツにも応用できて汎用性が高い。
故郷では大人気だったし、シェラも好きだった。
「抹茶、とかどうですか?」
シェラは顔を上げると、そう提案した。
「〝まっちゃ〟……?」
「〝まっちゃ〟……とは?」
「なにそれ、聞いた事なーい」
3人は揃って首を傾げた。
この反応を見ると馴染みがないどころか、そもそも抹茶という存在を知らなさそうだ。
「ああ、えっと……、グリーンティーのことです。グリーンティーの粉末ってありますか?」
〝抹茶〟というのはシェラの故郷での言い方で、3人にも伝わるようにグリーンティーと言い換える。
すると、紅茶に詳しいジェイドが反応した。
「グリーンティー……ええ、一応ご用意はありますが、僕達にはあまり馴染みがありませんね。確か東の島国でよく飲まれているお茶ですよね?」
そう言いながらジェイドはカウンターの中に入ると、封が切られていないグリーンティーの粉末を持ってきて、シェラの前に置いた。
「これが〝まっちゃ〟と言うのですか?」
アズールが訝しげにシェラに訊く。
包装には〝GREEN TEA〟と書かれているから、疑うのも無理のない話だ。
「うーん……普通に水とかで作るとただの緑茶ですが……。お湯と茶筅……は無いだろうから、泡立て器でお茶を点てると言いますか……」
「〝りょくちゃ〟……?〝ちゃせん〟……?興味深いですね」
おおよそ聞いた事がないであろう単語に、お茶について造詣深いジェイドが興味を示す。