第6章 5. 人魚の純情
「せっかく足を運んでいただいたので、ランチも兼ねてラウンジの新メニューについてシェラさんの意見もいただこうかと思ってお招きしました」
「それはいい。新メニューの案が頭打ちになっていたところです。是非、異世界人のシェラさんの意見も聞かせていただきたい」
「お役に立てるかどうかはわかりませんが……わかりました」
一瞬で経営者の顔になったアズールの瞳が、眼鏡の奥で光る。
(そういえば私、異世界人だったな……)
この世界に召喚されて4ヶ月。
今では、自分が異世界人だということも忘れかけるくらいには、ナイトレイブンカレッジでの生活に慣れてきていた。
ジェイドは、シェラから受け取った荷物を部屋に置いてくると言って一旦席を外した。
アズールはシェラの目の前に、モストロ・ラウンジの新メニューの企画書を広げた。
和食文化圏出身のシェラからしたら、どれも物珍しくて見ているだけで食欲や想像が掻き立てられる。
そんな楽しい想像をしていたシェラだったが、余白に大きく〝外部流出厳禁〟と書かれていることに気づいた。
(これ、私が見たらまずいものなのでは……?)
そんなものを部外者に見せていいのか、と思ったシェラの頬が引き攣る。
アズールの思惑に、シェラはまだ気づけない。
企画書に目を落としているシェラの上で、アズールはにっこりと笑顔を深くする。
余白の〝外部流出厳禁〟を全く意に介した様子もなく、アズールは企画書と既存のメニューを見せながら、惜しげも無くシェラに新メニューについて説明する。
時折、隣に座るフロイドが補足をしてくれて、あらかた内容は理解出来た。
しばらくするとジェイドが戻ってきて、シェラの右隣に腰を下ろした。
(圧がすごい……)
正面にアズール、両隣をリーチ兄弟に挟まれるようなかたちになったシェラ。
話し合いに参加しているだけなのに、シェラはなんだか取り立てをされているような気分になった。
「どうにもメニューのマンネリ化が否めないのです。何か、お客様を惹きつけるような物珍しいものでもあるといいのですが……」
「小エビちゃん、なんか良い案ないー?」
アズールが困った様に言うと、フロイドが同調してシェラに意見を求めてきた。