第6章 5. 人魚の純情
案内されるままジェイドについて行くと、アズールとフロイドがモストロ・ラウンジのソファに座って何か話し合っていた。
ホリデー期間中だからか、ふたりとも寮服ではあるものの、ジャケットを脱いだ普段よりもややラフな装いをしていた。
ボウタイはきちんと締めているが、アズールがシャツにカマーバンドとサスペンダーだけなのは珍しい。
人前に出ない時は少し肩の力を抜いているのだろう。
戻ってきた足音が増えていることにいち早く気づいたフロイドが顔を上げる。
ジェイドが連れてきたのがシェラだと分かると、フロイドはその顔に満面の笑顔を咲かせながら明るい声を上げた。
「あぁー!小エビちゃんだぁ!遊びに来てくれたの?嬉しいなぁ。いらっしゃぁい」
フロイドは一息で言いながら立ち上がる。
そして大股でシェラに歩み寄り、腕を引っ張って自分の隣に座らせた。
「急にジェイドが席を外したと思ったら、シェラさんがいらしていたのですね。ようこそ、オクタヴィネルへ」
紳士的で上品な笑顔を見せながら、アズールはシェラを歓迎した。
アズールの顔を見てシェラは、モストロ・ラウンジの机と椅子の修繕費と助けてもらった際の労働費のことについて思い出した。
アズールは、スカラビアのトラブルを解決した今になっても、それについては何も触れてこない。
忘れている、なんてことはアズールに限って絶対にないだろうが、一体どういうつもりなのだろう。
「フロイド先輩、アズール先輩、こんにちは」
「シェラさんがフロイドの服を返しに来てくださいました。一緒にお菓子もいただきましたよ」
シェラと口裏を合わせた通り、ジェイドは何食わぬ顔でラッピングされた焼き菓子の詰め合わせのみを見せた。
「これはこれは。お気遣いいただきありがとうございます」
「ありがとぉ!」
「いえ、先日はたくさんお世話になりましたので」
アズールとフロイドは人の良い笑顔でシェラにお礼を言った。
先日のスカラビアの一件を境に、オクタヴィネルのメンバー……特にアズールとジェイドと打ち解けられたような気がする。
打算的で食えないところは変わらないが、普段の彼らは紳士的で優しいとシェラは思う。
フロイドに関しては、この件よりも前から〝色々と〟絡みが多いから、特に何か変わったとは感じなかった。