第6章 5. 人魚の純情
シェラの部屋にストックしてある焼き菓子をいくつか選んでラッピングをして中に入れておいた。
贈答用のお菓子を用意出来たら良かったのだが、あいにくホリデー期間中、購買はクローズしている。
「あ。あとジェイド先輩には……」
紙袋の中から、さらに手のひらサイズの紙袋を取り出すと、ジェイドに渡した。
「紅茶風呂用に、と茶葉をいただいたので。全部お風呂にするには勿体なかったんでクッキーにしてみました」
スカラビアのトラブルを解決した後、シェラはジェイドから紅茶の茶葉をもらっていた。
その頃には日焼けは大分良くなっていたのだが、僅かに赤みが残るシェラの肌をジェイドは気にかけてくれて、オンボロ寮でも紅茶風呂に入れるようにと渡してくれたものだった。
ティーパックではなく、茶葉を煮出して淹れるような紅茶だ。
どうにも風呂用のみで使うには勿体なかった。
そこでシェラは、クッキーにしてみようと思いついた。
「これを、僕に……?」
ジェイドはシェラから、クッキーの入った小さな紙袋を受け取ると、それとシェラを交互に見つめる。
フロイドとは左右の色彩が逆の、オリーブとゴールドの瞳が揺れた。
普段の大人びた余裕のある態度は息を潜め、年相応の初心な驚きをシェラに見せる。
「はい。皆さんにはたくさんお世話になりましたが、特にジェイド先輩には傷を治してもらったり紅茶風呂を用意していただいたり、それに茶葉までいただいてしまったので」
ここまでしてくれたのに、ジェイドは特に世話代や見返りなどを要求しなかった。
それどころか、肌の調子を心配してくれて茶葉まで持たせてくれた。
「ありがとうございました」
そう言いながら、シェラはぺこりと頭を下げた。
「……シェラさん、貴女は本当に律儀でお優しい方だ」
何かをぐっと堪えたような間の後で、ジェイドがぽつりと呟いた。
シェラは顔を上げる。
「そんなことありませんよ。お世話になったらお礼をする。そんなの当たり前です。子どもでも知ってます。あなた方でいう、稚魚でも知ってる、というものですね」
ジェイドを見上げながら、シェラはいたずらっぽく口角を上げた。
「あと、その紅茶クッキー、皆さんではなくジェイド先輩へのお礼です。おふたりには……特にフロイド先輩には内緒ですよ?」