第6章 5. 人魚の純情
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(なんだかホリデーなのに休めてる気がしないな……)
そんなことを思いながら、シェラはひとり大食堂の暖炉の火を眺めていた。
グリムは寒くてベッドから出たくないとごねていたから、オンボロ寮に置いてきた。
スカラビアでのトラブルを解決して、ようやくシェラに平穏な休暇が訪れた。
一連のスカラビアの事件の黒幕はジャミルだった。
ジャミルはユニーク魔法でカリムを洗脳し操って、スカラビアに不協和音をもたらしていた。
今回のトラブルでは、オクタヴィネルの3人が解決に一役買ってくれた。
ジェイドのユニーク魔法やアズールの策が無ければ解決への糸口は見つからなかったし、ユニーク魔法を貸すというフロイドの飛躍した行動がなければ危なかった。
よく砂漠の果てまで吹っ飛ばされて生きて帰れたな、と思う。
カリムのユニーク魔法に助けられたし、リーチ兄弟が頑張ってくれたお陰で、オーバーブロッドしたジャミルも何とか大事に至らずに済んだ。
裏切られたカリムは、ジャミルのことを許して友達になろうと笑っていた。
なぜカリムが、寮生達にとても慕われているのかよく分かった。
彼はおおらかで、器が大きい。
この学園の生徒達はみな個性が強すぎて協調性皆無だと思っていた。
しかし4回もオーバーブロッド事件に巻き込まれると、見えてくるものもある。
みな一癖も二癖もあるが、相手を思いやる気持ちはしっかりと持っている。
それに、オーバーブロッドした彼らはそれで気づくのだ。
闇落ちバーサーカー状態になっても、変わらずそばに居てくれる存在に。
癖が強いだけで根っからの悪人というのは案外居ないのかもしれない、とシェラはこれまでのことを思い起こしながら思った。
暖炉の火を見守っていたシェラは立ち上がる。
オンボロ寮に帰る前に、寄るところがあった。
大食堂を後にして、シェラはある場所へ向かう。
それは、鏡舎。
ここを経由しないと行けない場所に、用事があった。
小ぶりな紙袋を手に持ったシェラは、7つある鏡のうち、迷わず目的地に繋がる鏡に向かう。
貝殻の形をしたランプが、ぼんやりと青く光っている。
タコやウツボを模した装飾と〝Octavinelle〟の文字。
鏡面に溶けるように、シェラの身体が吸い込まれていった。