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泡沫は海に還す【twst】

第6章 5. 人魚の純情


風呂上がりに髪を乾かすことを面倒がってそのまま寝ようとするフロイドが想像に容易すぎて、シェラは思わずふふっと笑ってしまった。

鏡台の鏡には、背が高いフロイドの顔は映らず、シェラの顔のみを映していた。
鏡に映るシェラの笑顔に、フロイドが淡く頬を染めていたことに、シェラは気づかない。

「小エビちゃん、オレさ、今まで雌にするには失礼なことたくさんしてきちゃったかも……ごめん……」

(メス……)

性別の言い方が少し引っかかったが、フロイドは人魚だ。
人間の性別は男女で表現するが、魚の性別は雌雄で表現することを思い出した。
多分フロイドにとって〝雌〟は〝女の子〟と同義だ。

(失礼、とか気にするんですね)

失礼と言われて1番最初に思い出したのは、あの飛行術の日にいきなり人の匂いを嗅いできたことだ。
しかしシェラも、寝間着として借りたフロイドの服をこっそり嗅いでいたから、何も言えない。

再び落ち込み始めたフロイドへ、シェラは振り向いて目を合わせる。

肩までの短いシェラの髪はすぐ乾く。
シェラはフロイドの手からするりとドライヤーを取ると、声を風の音で遮られないようにスイッチを切った。

「フロイド先輩、そんなに落ち込まなくて大丈夫です。本気で嫌だったら、とっくにあなたのこと嫌いになってますから。だから、元気出してください」

ね、とシェラは表情を柔らかくし、穏やかな笑みをフロイドに見せる。
そしてすぐ鏡へ向き直ると、まだ温かい髪に触れた。

鏡を見るシェラが気づかぬところで、フロイドは照れたように目を泳がせた。

「髪、乾かしてくださってありがとうございました」
シェラはコンセントを抜いてコードをまとめると、ドライヤーを元あった場所に片付けて立ち上がる。

「手土産の準備、私も手伝います」
「それがねぇ、もう出来てんだぁ」
「え、そうなんですか?私、最初から最後まで役立たずじゃないですか」
「小エビちゃんは疲れてんだからゆっくりしてなよぉ」
出鼻を挫かれ表情が固まったシェラが可笑しかったのか、フロイドは頬を緩めた。

「小エビちゃんってほーんと真面目」
可愛いなぁ、という言葉は言わず、代わりにフロイドは自分の顎下あたりにくるシェラの頭をぽんぽんと優しく撫でた。
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