第6章 5. 人魚の純情
フロイドが届けてくれた洗濯済のスカラビア寮服に着替え終わったシェラは、扉の前で外から聞こえる会話の声に耳を澄ませていた。
内容まではわからないが、扉の外でジェイドとフロイドが何か話している。
今このタイミングで出ていくのは、ふたりの会話の腰を折るようで、少し無粋な気がする。
シェラは濡れた髪を気にしながら、扉の前で会話が終わるのを待つ。
やがて、話し声が聞こえなくなった。
足音がひとつ遠のいていく。
どちらか、どちらでもいいが、ドライヤーを借りたいから扉の外にいて欲しい。
そんなことを考えながらシェラは扉を開けた。
「フロイド先輩……」
扉を開けると、残っていたのはフロイドだった。
「小エビちゃん、さっきは本当にごめん」
珍しく気落ちしているフロイド。ごめん、と謝る声が湿っている。
ここだけ空気がどんよりしている。
身体は見上げるほど大きいが、しゅん、と落ち込んだフロイドの姿は普段よりも幾分小さく見えた。
「いえ、私の方こそ……貧相なものを見せてすみませんでした」
「そ!そんなことねーし!」
「はい?」
そんなことない、とはどういうことだろうか。
人魚の女性はみなシェラと同じくらいの体型なのだろうか。
そんなことないと言ったということは、あの時シェラの下着姿をしかと見たということだ。
どうにか忘れてくれないだろうか。
「あっ……」
フロイドなりに申し訳ないという気持ちを持って、精一杯シェラのことをフォローしようとしてくれているのは伝わるが、どうにも空回りしている気がする。
着替え中に鉢合わせした時と同じように、ふたりの間に沈黙が流れる。
わざとでは無いだろうから、あれは事故だ。
ちゃんと確認してから入るよう注意はすれど、叱る気は最初から無い。
しかもここまで落ち込まれると気の毒になってくる。
それにしても気まずい。気まず過ぎる。
どうしようか、と考えたシェラは濡れたままの髪の毛に触れると、話題を変えようとフロイドに声をかける。
「あの、ドライヤーをお借りしてもいいですか?」
「あ……うん。いいよぉ」
シェラの申し出に、フロイドは目を合わせずに応えるとサニタリールームへ入っていった。
シェラもフロイドの後に続く。
「ドライヤーはここねぇ」
「はい。ありがとうございます」