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泡沫は海に還す【twst】

第6章 5. 人魚の純情


持ってきてくれるはずの着替えがまだ無いことにシェラが気づいたのと、ノックと共に扉が開いたのは同時だった。

まさかシェラがもう出ているとは思っていないであろうフロイドが、いつもの調子でサニタリールームに入ってくる。

「小エビちゃーん、入るよぉ。着替え持って来たからここ置いと……」

着替えを持ってきてくれたフロイドと、下着姿のシェラの視線がぶつかる。

「え」
「あ……」

気まずいことこの上ないタイミングで、フロイドが入ってきてしまった。
顔を赤らめながらシェラは咄嗟にバスタオルで身体を隠す。
きっとフロイドは、シェラの痩せた身体なんて見たところでなんとも思わないだろうが、一応シェラにも恥じらいというものはある。

お互いの間に沈黙が流れる。
フロイドにとっても、シェラがもう風呂から上がっているだなんて想定外だったようだ。
あまりの衝撃に固まってしまい、ぽかんと口を開けて唖然としている。
これが虚無顔というのだろう、なんてシェラは思った。

(なぜあなたが固まるんです……)

この状況で固まるのは、見られたシェラの方だろう。
しかし当のシェラは随分と冷静で、寝間着として借りていたフロイドのTシャツを着た。
裾が太腿辺りまであるからとりあえずいいだろうと思い、固まってしまい動かない上に声も発さないフロイドへ近寄る。

「あの、こんな格好ですみません。着替えをいただいてもいいですか?」
シェラは困惑した表情でフロイドに声をかける。
シェラに声をかけられて、ようやくフロイドは我に返ったようで、その顔がみるみる真っ赤に染まっていく。

「ごっ……!ごめん小エビちゃん!!!」
大慌てで持ってきた着替えをシェラに渡すと、勢いよく扉を閉めた。

あまりの慌てように、ひとりサニタリールームに残ったシェラは呆気に取られる。
『あ、ごめーん』くらいの軽い感じで謝られると思っていただけに、あの慌て方には驚いた。

着替える前に保湿として、ジャミルからもらった香油を塗ろうと手に垂らす。
フロイドは悪気があったわけでは無さそうだから叱る気はない。
むしろあそこまで慌てられると、逆に申し訳なくなる。
そんなことを考えながらシェラは、香油を薄く身体に塗り込んでいった。
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