第6章 5. 人魚の純情
湯船に浸かりながら、シェラは天井を仰ぐ。
折角逃げてきたのに今からまたスカラビア行くなんて、気が重い。
アズールに任せておけば楽しいホリデーになる、とジェイドは笑いながら言っていたが、アズールは一体なにを企んでいるのだろう。
上手いこと言ってくれて、あの厳しすぎる特訓のいくらかは回避してくれそうだが、いかんせん何を考えているのか全く分からない。
しかしあの用心深いアズールのことだから、策無しで乗り込むとは考え難いのも事実。
ここは大人しく従っておく方が得策な気がする。
長い物には巻かれろ、という言葉もある。
風呂に入って30分くらい経っただろうか。
そろそろ上がろうかとシェラは思い始める。
貸してもらっている身で、あまり長風呂をするのも気が引ける。
それにもう十分ゆっくり出来た。
ざぶん、という水音と共にシェラはバスタブから出る。
紅茶風呂は美容に良いという話も納得で、日焼けの痛みを感じないくらいには炎症も収まったし、肌もしっとりしている気がする。
バスルームを出て、ふかふかのバスタオルに身を包む。
お湯から上がっても、身体がぽかぽかしていて気持ちがいい。
シェラはバスタオルを身体に巻いて、魔導式洗濯機の蓋を開ける。
洗濯から乾燥までを高速で終わらせてくれるというのは伊達ではなく、30分で洗い上がって乾いた下着を手に取り、シェラは鏡台の前に立った。
ショーツに脚を通し、ワイヤーの入っていないブラジャーのホックを留める。
レースなどの装飾がなにもついていない、飾りげのないシンプルなモカグレージュの下着を身につけたシェラは、鏡に映る自分の姿を見て悩ましげに目を細めた。
(スカラビアの特訓でまた痩せたかな……)
胸部と臀部の脂肪も少ないが、腹部は更に脂肪が少なく縦筋がうっすらと浮いている。
シェラは自分の体型について男子とそう大差ないと思い込んでいるが、肉のない腹は細い腰に向かって、男子が持ち得ないなめらかな曲線でくびれを描いていた。
この世界に来てすぐの頃は、寸胴でくびれのない体型であったが、3ヶ月の月日を経てシェラの身体は少しずつ女性のそれへと変化しつつあった。
いつまでも下着のままだと湯冷めする。
シェラは着替えの服を探して、気がついた。
(あれ、服がまだ……)