第6章 5. 人魚の純情
何か手伝えることは無いか、というシェラの思考を先読みしたようなタイミングで、ジェイドは言葉を重ねた。
「え……?いえ、そこまでお世話になるわけには……」
「そう遠慮なさらずに。日焼けに効く紅茶風呂をご用意しましたから。傷は治癒魔法で治せますが、日焼けまでは治せません。肌が真っ赤で痛そうです。シェラさんは女性ですから、肌は労わってあげてください」
さあ、とジェイドはシェラに入浴を勧める。
この世界に来て初めて誰かに女の子扱いをされた気がする。
シェラはそういった扱いを望んでいない。
しかし、いざ女の子扱いをされると妙に気恥ずかしくて、思わずシェラは照れてジェイドから視線を外してしまった。
そんなシェラのいじらしい様子を見たジェイドは、シェラが気付かぬところですっと目尻を下げて淡く笑う。
正直、昨晩は入浴を待たずにスカラビアから逃げてきたから、ジェイドの申し出はとても有難かった。
穴から絞り出されたり、全力でスカラビア寮内を走り回ったりで、土埃や汗が気になっていた。
ここはジェイドの厚意に甘えることにした。
「あの、私の傷を治してくれたのはジェイド先輩ですか?」
外していた視線をジェイドに戻してシェラは訊いた。
するとジェイドは普段通り、畏まった仕草を添えてそれを肯定した。
「はい。傷だらけのままでは痛くて仕方ないでしょう?流石に可哀想でしたので」
「ありがとうございました」
シェラは深々と頭を下げる。
傷を治してくれた上に日焼けを心配して紅茶風呂まで用意してくれるなんて。ジェイドの細やかな気遣いにシェラは頭が上がらない。
いっそ世話代も請求されてもいいと思う。むしろ、何もお礼をしない方が失礼になるのではないかと思う。
シェラのあまりに礼儀正しい姿にジェイドは一瞬驚いたような表情をすると、すぐににこりと笑ってシェラの肩に触れた。
「いえ、お気になさらず。さあ、顔を上げて。ご案内します」
オクタヴィネル寮内はモストロ・ラウンジしか知らないシェラにとって、廊下の壁がガラス張りで外がすぐ海になっているのはとても新鮮で、ほんの少し浮き足立ってしまう。
水族館にいるような気分のシェラは、ガラスの向こうの海に目を奪われながらジェイドの後について歩く。