第6章 5. 人魚の純情
薄汚れた服のまま他人のベッドに入るのは気が引けるから、着替えさせてくれたことに関しては何も問題無いし、むしろ感謝している。
ただ、その着替えさせ方が気になってしまった。
(まあ、こんな貧相な身体を見たところでなんとも思わないか……)
幸か不幸か、思春期の男子を誘惑するような身体つきではない。
たとえ見られたとしてもどうもこうも無いのだが、それでも出来れば痩せぎすで貧相な身体は隠しておきたかった。
シェラはそっと自分の胸に触れ、その膨らみのささやかさにこっそり溜息をついていると、コンコンと扉をノックされる音が部屋に響いた。
3回のノックの後、扉の影から現れたのはこの部屋の主のひとり、ジェイドだった。
ジェイドはシェラが起きていることを確認すると、柔和な笑みと共に品良く挨拶の会釈をした。
「おはようございます、シェラさん。そろそろ起こそうと思って来たのですが、もう起きていらしたのですね」
「おはようございます、ジェイド先輩」
オーバーサイズのTシャツから露出する鎖骨を隠すように整えていると、ジェイドはこちらへ歩み寄ってきた。
ベッドの傍まで来ると、膝をついて目線を下げ、シェラの顔をじっと見つめて顔色を確認する。
「ご気分はいかがです?よく眠れましたか?」
「はい、お陰様で。身体が軽いです」
「それは良かった」
シェラがベッドから降りようとすると、ジェイドは流麗な動作でさっと足元に靴を並べた。
シェラはそれに対してお礼を言いながら靴を履くと、ジェイドを見上げた。
「あの、もしかして私、寝坊ですか?」
「いえ、そんなことありませんよ。まだ早朝です」
シェラが目を覚ました時には、ジェイドもフロイドもいなかった。
昨晩シェラが眠りに落ちる直前に、アズールがふたりにスカラビアへの手土産を用意するよう指示をしていたことを思い出した。
まだ早朝だとしたら、彼らは一体何時に起きたのだろう。
自分だけ長く眠っていて、申し訳ないという気持ちが込み上げる。
それに、傷を治してもらったことと、ベッドで寝かせてもらったことのお礼もしなくてはならない。
手土産を用意すると言っていた。何か手伝えたらいいが。
「あの……」
「シェラさん、お風呂に入ってきてはいかがですか?その為に少し早く起こしに来たんです」