第6章 5. 人魚の純情
◇ ◇ ◇
温かい腕に包まれていたような気がする。
誰に起こされるわけでもなく、シェラは自然に、そして放心したように目を覚ました。
「ここは……」
眼前には知らない天井が広がっている。
まだ頭の中が半分夢の中のシェラは、ゆっくりと身体を起こした。
随分よく寝た気がするが、今一体何時なのだろう。
寝起きで頭が冴えず、朝なのか夜なのかも判断つかない。
ぐるりと部屋を見渡すと、綺麗に整理整頓されたスペースと生活感溢れるスペースがシェラの視界に飛び込んできた。
そして今シェラがいるのは、後者の生活感溢れるスペース。
扉に服が乱雑にかけられた半開きのクローゼットと、至る所に積まれているお菓子の山にシェラは思わず眉を寄せる。
この空間で誰が生活しているのか、教えられなくとも理解出来た。
(ジェイド先輩とフロイド先輩の部屋だ……)
床でいいから寝かせて欲しいと頼んだところまでは覚えている。
どうやらそのまま眠ってしまい、フロイドが気を利かせてくれてベッドで寝かせてくれたのだろう。
そのお陰か、昨日と比べて身体は軽いし頭痛も止んだ。
後でお礼を言わなければいけない。
(……?傷が治ってる……?)
身体の軽さを感じると同時に、腕の裂傷の痛みが全く無くなっていることにシェラは気づいた。
そっと袖をまくると、傷だらけだった腕が綺麗に完治しているのを目の当たりにした。
シェラが眠っていて気づかぬ間に、ジェイドかフロイドのどちらかが治癒魔法をかけてくれたのだろう。
何から何までお世話になってしまっている。
後で世話代も請求されるかもしれない。
オクタヴィネルの3人が何かをしてくれる時は、後で必ず対価を要求してくるという先入観がどうしても抜けない。
(あれ、いつの間にか着替えてる……)
傷の完治の次に、シェラはスカラビアの寮服ではなく、随分と大きな服を着ていることに気づいた。
腕の動きに合わせてマリンシトラスが香る。
この匂いとサイズ感からして、フロイドのものだろう。
肩の位置が合わないTシャツは襟ぐりから鎖骨が大きく覗き、袖からは手が出ない。
履いているのは恐らくハーフパンツであるはずなのに、裾がシェラのふくらはぎの半分以上を隠して余る。
(どうやって着替えさせたんだろう……)