第4章 アネモネ *尾浜勘右衛門*
「だからよぉ!!俺が頼んだのは素うどんなんだよ!きつねうどんなんて頼んでねえの!」
「いえ、確かにきつねと…」
「はぁ?俺が嘘言ってるって言いてぇのか?」
と、なんとも質の悪そうな侍だった。
女店員の方は今にも泣きそうだし、男のせいで店にいたお客さんの大半がお金を置いてそそくさと出て行くし・・・
「八左ヱ門…」
「あぁ、なんとかあの男の気を引いて…」
『ちょっとおじさん!あたし聞いてたけど、あんたしっかり「きつね」って言ってたよ?何おじさん、自分が言った事も忘れるくらい阿呆なの?』
と、こともあろうにもめている2人の間に入ったのは和歌菜だった。彼女はいつもの鉄扇で肩に叩きながらおじさんに睨みを利かせる。おっさんは言い返されて多少は怯んだものの相手が女だと分かると露骨に勝気な顔をした。
「んだと、小娘!!女のくせに!!」
と、ついに男は女である彼女に殴りかかろうとする始末だ
さすがに俺と八左ヱ門がそれを止めようとしたが、先に止めたのは彼女のそばにいた兵助だった。
兵助は彼女の肩に手を置いて男の間に入り寸鉄を周りから見えないように男の喉元に宛がっていた。そして、今にも男を殺しそうな目つきをしていた。
「…俺の女に何する気だ?」
いつもの兵助では考えられないような殺気を放ち俺も八左ヱ門もその場で立ち止まってしまった。男はすっかり腰を抜かしてしまい覚束無い足を引きずって慌てて走り去っていった。
その時運よく男は持っていた小銭袋を落としていったため彼女はそれを拾って女店員に手渡した。
『はい、お姉さん。』
「あ、ありがとうございます!あの…貴方様も」
「和歌菜!!」
女店員さんは、最初に助けた彼女にもお礼を言うが、それ以上に兵助の方に話しかけようと顔を赤らめていたが、兵助はそんな女店員なんて見ていないように彼女の方を慌てて見る。