第4章 アネモネ *尾浜勘右衛門*
「なんか、普通に恋仲に見えるのが…」
「無性に腹が立つ!」
年配の待ち人に変装した俺達は2人の様子を見ながら八左ヱ門と団子屋に座っていた。2人は簪屋を出た後に今度は兵助の買い物に付き合っていた。
「女との外出で豆腐屋ってねえよな…」
「ねえな…。なんで和歌菜アレでいいのかな…」
「俺だったら、もっといいとこ連れて行くのに…」
「どうせ野生動物のいそうな森だろ?」
「んなわけ…!!」
「おっ!?出てきたぞ、行くぞ!!」
と、2人が豆腐やから出てきたのを見て、俺は団子屋のおっちゃんに銭を渡して慌てて2人を追いかけた。2人はその後も何件か店を回って途中でうどん屋に入っていった。そこでも、2人はまるで恋仲のように笑い合っていて・・・
「・・・。」
「か、勘右衛門…」
「ん?なんだ?」
「お前、どんどん口数が減ってきてるぞ」
「そうか?八左ヱ門はなんとも思わないのか?」
うどん屋の前にある反物屋で品物を見るふりをしながら2人の様子をうかがっていると八左ヱ門にそんなことを言われた。
俺は2人の仲がいい様子にだんだん腹が立ち始めていたため口数が少なくなっていたのかもしれない。八左ヱ門もきっとそうだと思い尋ねてみるが・・・。
「…俺は、和歌菜が楽しそうに笑ってる顔を見るのが好きなんだ。だから、それができるのが俺じゃなくて兵助ならいいかな…って思い始めちゃった。もちろん悔しいけどな」
そういう八左ヱ門の顔は、まぎれもない悔しさを紛らわすような作り笑顔だった。
正直俺には、そんな風に言える八左ヱ門をすごいと思った。
俺は、和歌菜の隣にいるのが兵助じゃなくて俺だったら…と思ってしまって仕方がなかった。
ガッシャーーーン!!!
「キャー!!」と、2人のいるうどん屋から大きな音と悲鳴が聞こえてきた。見るとうどん屋のおもての席で女店員と厳つい侍が揉めているようだった。