第8章 ツキミソウ *中在家長次*
「それで思わず…押し倒してしまったのだ」
「…はぁ」
いつもの短気で何も考えていない性格が災いしたようで、頭で考えるよりも先に身体が動いてしまったと、七松は後悔しているようだった。だが、後悔したところで実際に彼女の事は傷つけてしまっているという事実に七松は頭を抱えていた。
「どうしよう長次…私、和歌菜に嫌われてしまったら…」
「…まずは、もう一度彼女に誠心誠意謝罪するのが先決だろう。花でも持って謝りに行け。」
「…あぁ、そうする!!」
と、また頭より先に身体が反応したようで颯爽と部屋から飛び出して行ってしまった。
中在家は、取り越し苦労により一気に肩の力が抜けてしまい本を閉じて一息ついた。
すると、パタパタと廊下を走ってくる足音が聞こえた。
音の主に気づいている中在家はゆっくりと襖の方を見る。
『し、失礼します』
部屋の前で止まった足音の代わりに、女の声が聞こえてきた。
それが彼女のものだということは足音の段階で気が付いていたが、まさか部屋までくるとは思っていなかった中在家は内心驚きながらも彼女を部屋にいれた。
「…身体は、大丈夫か?」
『はい、ご心配をおかけしました。』
薄い寝巻に彼女の自前の羽織を纏っている姿に、少しの色香を感じてしまったが弱っている彼女には、そっと言葉をかけることしかできなかった。
『あの長次さん…小平太さんは…』
「…少し出ている。」
『そうですか…。』
「…思いを、告げたと聞いたぞ。」
『…ッ。』
きっと彼女はそのことを話しに来たのだと思い、中在家はあえてその話を切り出してみた。恥ずかしさのせいか羽織を握り顔を赤くする彼女に、中在家はゆっくりと立ち上がり部屋にあった茶器を用意し始めた。