第1章 出会い
「さて、出来た!はい!」
手際良くボタンを付け直されたカッターシャツが戻ってきた
「じゃあ、私も着替えて準備してくるわ」
橘さんは慌ただしく部室を飛び出していった
嵐のような人
婿養子にくる?なんて逆プロポーズみたいな言葉
次男全員に言ってるんでしょ
僕がそうするって言ったら困るくせに
「ちっすー」
明るい声がして扉が開く
「あ、菅原さんお疲れ様です」
「今さぁ部室から歩ちゃん出ていかなかった?すれ違ったんだけど」
いつの間に歩ちゃん呼び
「まぁ、はい」
「部室に連れ込んで何してたんだよ、このこの〜」
冗談っぽく言ってるけど目が笑ってない
「シャツのボタンが取れかけてたんで、つけてもらってました」
「なにそれ羨ましい〜俺もとれかけてるとこないかな〜」
菅原さんはシャツのボタンを確認している
「月島さぁ
本当に歩ちゃんと付き合ってないんだよな」
「はい」
「じゃあ…別にいいよな」
?
「俺、いいなって思ってるんだよね。明るくて話してると楽しいけど、マネ経験もあるから細かいとこ気つくし、昔でいう器量良し!みたいなね」
まさにそうなんだよ
「僕には関係ないんで」
そう言って部室を後にする。
体育館に入ると既に橘さんが準備をしていた
空気が抜けたボールを膨らませている
電動空気入れの音で僕が入ってきたことに気づかない
ブーン
「ねぇ」
「わー!びっくりした!いたん?」
「いちいちリアクションがうるさい」
「ごめんごめん」
「あのさぁ」
「なに?」
「橘さんって呼ぶの長いから…
「歩でいいよ!翔陽もそうやし!」
そんな簡単に…
しかも日向と一緒の扱い
どんだけ男として意識してないの
僕がどんな気持ちで言ったか分かる?
彼女は何事もなかったかのように、またボールを膨らませる
名前で呼んでいいって言われたのに
少しも嬉しくなかった