第15章 BOOST
「そうは言っても、もう盆と正月ぐらいしか顔を見ることもない。お前が心底羨ましいよ。周りの話聞いてても子世代、孫世代が農家を継いでくれないってので、辞めどきを考えてる連中もかなり多いな…」
「せっかく子のため孫のためって張り切って作っても、東京やそこいらに行っちまったんじゃ食わせてやることもできねぇって…なんだか寂しいもんだな」
2人の話が深刻そうになってきたので、コーチが気を遣って私たちを車に乗るように促す
監督と男性に挨拶をし、私たちは車に乗り込んだ
私は遠ざかっていく烏養家を車窓から眺めながら、今日のことを取り留めもなく考えた
食うことは生きることって監督の言葉
それと…今まで世の中のおじいちゃん、おばあちゃんが畑で野菜を作っているということについて何とも思ってなかったけど、尼崎の祖父母もそうだったと思い出した
春には豆類、夏にはトマトや私の好きなとうもろこし、秋にはさつまいも、冬にはブロッコリーや白菜…
じいちゃんの軽トラの荷台に3人で乗っかって…いや、侑と治もいたから5人か…
祖父母が育てた野菜をその場でみんなで収穫して食べた思い出が蘇る
じいちゃんは専業農家やったわけでなく、公務員やったらしいから定年してから畑をやり始めたってことなんやろうし、別にどっかに売りに出してたわけでもない
そうか…
私らに食べさせてやりたい
そう思って作ってくれてたんか
食べることは生きること
食べ物によって、食べ物を作る人によって…
私は生かされてきた
何故かそれを唐突に理解した
じいちゃんが死んで5年…
急にじいちゃんの愛が溢れ出して、涙が頬を伝った
翔陽は私が泣いていたことに気づいてたかな
何も言わなかったけど