第15章 BOOST
次のオフ、コーチが運転する車の後部座席に揺られて、いつぞやの子午山、烏養一繋元監督が隠居する、高台を目指す
私たち2人の…いや、それとも単純に実の孫の訪問が、かもしれないが、嬉しそうに出迎えてくれた監督は
「チビ太郎、嬢ちゃんよくきたな」
と顔を綻ばせた
「監督、その後お身体はどうですか?」
と訊くと、絶好調すぎるくらいだと返事が返ってきた
監督は私たちが春高に行っている間、ちょうど入院していて病院でゴミ捨て場の戦いを観戦していた、とコーチから聞かされていた
「チビ太郎、化け猫退治ご苦労だったな!あんなにスカッとする試合見せられた日にゃ、病気もなにも吹っ飛んじまったよ」
「どうせ、病室で騒いでたんだろ?ったく、目に浮かぶぜ」
とコーチが悪態をつく
「で、今日はどうした?」
身体を動かしていないと落ち着かないのか、監督は縁側からスリッパを履いて、立ち上がって左右に腰を捻る
まずは翔陽から話し始める
合宿や春高で、強い奴に出会えば出会うほど、自分に足りないものを自覚することとなり、ぜんぶ出来る様にならなければいけないと考えるようになったこと。
コート内のぜんぶをしよう考えると、2VS2が基本で、デフォルトで全ポジションする必要があるビーチバレーで修行をしてみたいこと。
翔陽の話を書き終わると監督は
「ビーチ!おもしれえな!だがツテは無ぇ!
事情に詳しいやつなら知ってる!」
と言って、その場で猫又監督に電話を掛けてくれた。
スマホを渡されたコーチが、何やら猫又監督から情報を聞いている。何でも日本でビーチを教えている人がいるようで、これでひとまず翔陽は地球の裏側にいくことは免れたわけだ。
「で、嬢ちゃんは?」
「わ、私ですか?」
「なんの用もねぇのに、チビ太郎の付き添いってわけじゃないだろう?」
「バレましたか?実は私、みんなにちゃんとしたご飯を食べて欲しくて、スポーツ選手のための栄養士みたいなものになりたいなって漠然と思ってて」
「そりゃいいことだ。身体は食ったもんで出来てるからな」
「ただ、管理栄養士というとやっぱり病院や教育現場への進路が多くて、何か監督が情報をお持ちだったら…って」