第15章 BOOST
「どんな仕事をするだとか、何歳で結婚して、何歳で子供がいて、何歳でマイホームを持つだとか…今決めなくてもいいことを、不安だからなんとなく、早いうちから決めておかなくちゃいけない気持ちになるんだろうな」
社会人の兄ちゃんの言葉には、ずしりと重みがあった
「…兄ちゃんも…そう思ってた?」
「そうだな、確かに高校生くらいの時が一番思ってたかもしんないな。例えば、卒業した後バレーボールを辞めるか、辞めないかを決めなくちゃ…とかも」
ハッとして顔を上げる
高校3年間、ベンチにも入れなかった兄ちゃんがバレーを続けるか、辞めるか、どんな気持ちでそのことを考えていたんだろう
結果的には今も社会人チームでバレーボールを続けている兄だけれど、そこには様々な葛藤があったに違いない
「なんて顔してんだよ、でもな…もし今あの時の俺に声をかけるとしたら、そんなこと今悩まなくていいってことだな」
「え?」
「別にそん時に決めたことが人生最後の決断ってわけじゃないから。1回バレーやめたって、やりたくなったらまた始めればいいし、続けてて嫌になったら辞めればいいし、休んでもいいし…だからそんなに大人になった俺のこと心配してくれなくても、そん時はそん時でどうかにかするよって言ってやりたいな」
そう言って兄ちゃんは優しく笑った
きっと兄ちゃんは高校生だった自分じゃなくて、僕にそう言ってくれてるんだ
「将来の夢があるならそれは素晴らしいことだし、それがあるから頑張れるやつもいると思う。でも蛍にはもっとすごい力がある」
「…なにそれ」
「あえて今の悩みに安直な結論を出してしまわずに、それを保持し続ける力がお前にはあると思う。だから蛍は蛍の行く先を決めつけてしまわずに、その時その時におかれた状態で常にベストな判断を重ねていけばいいって兄ちゃんは思うけどな」
「…なにそれ地味」
「得意だろ?リードブロックと一緒さ」
そうかもしれない
将来の夢、こうあるべきというレール、決めてしまえば楽かもしれない
それをあえて決めずに、選択が迫られる都度、自分が判断し続けるのは、確かに不安だと思う
でもめちゃくちゃしっくりきた