第15章 BOOST
「文房具作ってんのにデジタル化って面白くない?自分たちの得意分野を捨てるってことじゃん?なんでそんなことするんだろうって単純に疑問に思って、その時の採用担当の人に質問したんだ。そしたら、「私たちはアナログの良さを誰よりも知っています。だから、デジタル化する社会の中でもデジタルとアナログの共存、それぞれの良さを引き出して、顧客の生活に寄り添うことができると考えているのです。だから、主力事業である文房具やオフィス家具といったモノづくり企業から、顧客にワークスタイルやライフスタイルを提案する企業へとシフトを進めようと考えています。」って、すっごく自信を持って教えてくれたんだ。カッケー!俺もこの人たちとこの会社で働きたい!って思った」
「そっか…」
きっと兄ちゃんは、文房具メーカーに就職することを目標に、人生を歩んできたわけではないだろうけど…そんな風に、企業や人との出会いで、やりたいことが決まることもあるのかもしれない
…というか、子供の頃から目指して追いかけた夢に辿り着ける人なんて一握りで、ほとんどの場合が兄ちゃんのように就活を通して、やりたい仕事に出会うのかもしれない
そして…やりがいと誇りを持って働く兄を見ていると、それは妥協でも何でもなく、単純に素晴らしいことのように思える
「何だ、蛍?兄ちゃんに進路相談してくれるのか?!」
「別にそんなんじゃ…ただ、最近歩が興味のある仕事を見つけたって言ってんのとか…バレー部のやつらが当たり前にバレーボールで食ってく決心してんのとか見て…ちょっと、なんか思った。みんな将来の夢なんてそんなポンポン見つかんのが普通なのかなって」
進路相談するつもりなんてなかったのに、いつの間にかボソボソと話し始めてしまった
兄ちゃんは何故かとても嬉しそうな顔で僕の話を聞く
「…なに?あんまジロジロ見ないでよ」
「いや、こーんな小っちゃかった蛍が…いつの間にか進路に悩むほど大っきくなったんだなぁと思って」
そう言って兄ちゃんは、自分の腰あたりに手をやる
「そんな小っちゃかったのいつの話だよ」
「悩んでることとかさ…不安なこととかよく分かんないこと、例えば将来…みたいなことって、つい答えを求めたくなるよな」