第15章 BOOST
家に着くと、玄関に兄ちゃんの靴があることに気づく
「おかえり、蛍」
「ただいま…きてたんだ」
兄ちゃんは、今仙台市内で一人暮らしをしてる
と言っても、こうして結構実家にいたりもするけど
シャワーで汗を流し、浴室から戻ってくると兄ちゃんは缶ビールを片手にこちらを振り返り
「母さん、今日町内の寄り合いだってさ」
と言う
「そ」
短く言うと、机の上にラップをして置かれたおかずを、電子レンジに入れる
ちゃんとしたご飯を蛍とか…その、将来の子ども?…とかに、毎日心も身体もお腹いっぱいって思えるようなご飯作りたいのが1番
そう言ってくれた歩の言葉が頭に浮かんだ
母さんも、僕たち家族のために毎日そうやってキッチンに立ってくれていたと思うと、今更ながらありがたいって思う
食で家族やアスリートを支える仕事か…
ピーッピーッ
温まったおかずを机に置いて、ご飯と味噌汁をよそって椅子に座る
「いただきます」
「蛍…なんかあったか?」
ほろ酔いの兄ちゃんが言う
「は?なんで?…いただきますって言っただけじゃん」
「いや…なんか考え事してんのかなって感じだったから」
「別に…」
そう言って、ご飯を食べ進める
「蛍、何かあるならこの人生の先輩である兄に、何でも言ってくれていいんだぞ?あれか、もしかして歩ちゃんと喧嘩したとか?」
「してない」
「そうか!ラブラブそうでよかった!」
「兄ちゃんはさ…なんで今の会社に入ったワケ?」
兄ちゃんは今、文房具メーカーに勤めている
でも、文房具メーカー勤務なんて子供の頃から志していた仕事でもないだろうし…
「俺、もしかして今面接されてる?」
「いや別に…」
「うーん、そうだなぁ…就活して色んな企業訪問する中で、1番面白そうだったから、かな?文房具ってさ、一時期よりは下火なんだけど。つまり、紙のスケジュール帳だとか、ペンで紙に何かをメモするってこと自体、スマホの普及以降やっぱ減ってきてるんだよ」
「確かに、で?なんでそれが面白そうなワケ?」
「企業訪問の時、教えてもらった新ビジネスのテーマがデジタル化だったんだよ」
兄ちゃんの仕事の話はもしかしたら初めて聞くかもしれない
こうして仕事の話を聞くと、兄ちゃんはやっぱり7つ歳上で、社会人で、大人なんだと感じる