第15章 BOOST
意図を解しかねて、首を傾げると歩は
「それな、うちの家族がみんな使ってるお弁当箱やねん」
と言う
「歩だけじゃなくて?」
「うん」
彼女は毎日、5人家族全員のお弁当を作っていると言っていたけど、家族はみんなこのお弁当箱だったわけだ
中学生の妹2人が、この重厚な漆塗りの曲げワッパ弁当でご飯を食べるのは、ややシュールな気もするけど、もしかしたらそーゆーのもオシャレだって感覚なのかもしれない
「で、蛍にも同じのを使ってほしくて…誕生日プレゼントにしようと決めてたんやけど、誕生日を待たずに嬉しくて今日渡してしまったってゆー…しかもラッピングとかなしで、いきなり中身詰めた状態で」
と言って彼女は照れ臭そうに笑う
もう今まで、感じたことのない感情が押し寄せてきて
危うく白鳥沢戦の勢いで雄叫びあげるところだった
理性鍛えてて心底よかった
「密室じゃなくて助かったね歩」
「へ?」
「すごく嬉しいってこと」
そう言うと、彼女はパァと晴れやかな顔になった
で、そこから曲げワッパのプレゼンが始まった
「あんなぁ!漆ってすごい殺菌効果高くてな!だから夏のお弁当にもピッタリやねん!あとこれは橘家御用達の兵庫の職人さんに作ってもらったから、壊れたら修理してもらえるから、一生使える!あ、でも食洗機は使えへんから手洗いやで?だから毎日家族5人分の曲げワッパ手洗いすんのが父ちゃんの仕事やねん」
「そっかぁ…一生使えるのか…」
それはつまり一生、歩がこのお弁当箱でお弁当を作ってくれるってことか
それが叶うなら僕だって喜んで、曲げワッパの1つや2つ、手洗いするけどね
てか歩のお父さんがこれを5つも洗ってる様子を思い浮かべると、ちょっと面白い
「てか大丈夫?高かったんじゃない?」
「まぁ…ボチボチ。でも父ちゃんに相談したら、父ちゃんが懇意の職人さんやし、歩が!あの赤ちゃんやった歩が彼氏にプレゼントするって言うてるから、頼むわ!!って頼んで安くしてくれた」
「圧」
「あはは、でもなんか父ちゃん、蛍のこと気に入ってるみたいやから」
彼女のお父さんに気に入ってもらえてる、そう言われて悪い気はしなかった