第15章 BOOST
「あ…えっと」
「なんかあったか?」
「あったっちゃあったけど…別に嫌なことがあったわけじゃなくて。今日武田先生に進路相談に行って…ほら、あの人って、不良も就職させる進路相談の魔術師やん?」
「そ、そうなのか?」
毎度、彼女の言い回しは独特だ
「私最近ちょっと進路について悩んでて」
「橘さんが?意外だな」
「そう?」
「おう…なんか勉強教えんのとかも上手ぇし、料理も上手ぇし、何でも出来るから、何にでもなれんだろ?」
彼女は「褒めても何も出ぇへんよ」と笑うが、事実何を悩むことがあったのだろうか
「影山くんとか翔陽みたいな将来も何もバレーする選択肢一択の人からすれば、分からん感覚かもしれへんけど、なんか将来の夢とかなりたい職業ってゆーのがイマイチピンとこーへんくて、でも時間はあっという間に過ぎていくやん?それで武田先生に相談しにいった」
「で、泣かされた?」
「泣かされたってゆーとめっちゃ語弊あるけど…将来を不安に思い過ぎて今のかけがえのない仲間との時間を犠牲にするのは勿体ないって言われて…あ、でも、この前翔陽と話した時も同じようなこと言われた」
「日向が橘さんに?」
「そう、将来大人になった自分のことばっかりじゃなくて、今の自分がやりたいと思うことをやれって」
日向のやつ…なんかいい感じのこと言っててムカつく
「で、橘さんのやりたいことって?」
「バレー部のみんなと一緒にいて、みんながちゃんとしたご飯を食べれるようにサポートすること」
と言った
「それ、そういう仕事、海外のスポーツチームにある気がする」
「チームのお抱え栄養士的な?」
「おお、多分そんな感じ」
それが本当なら願ったり叶ったりだ
「じゃ…
「じゃあさ、いつか影山くんが日本代表になった時に私がその管理栄養士やるってどう?」
全く同じこと言おうと思ってた
彼女にはあと2年マネージャーとして支えてほしいと思っていたけれど、もしかするともっと長く、同じ道を進んでいくことが出来るんじゃねぇかって思うと、こっちも俄然やる気が出てきた
「やろうぜ一緒に、日本代表」